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49. 姫は『いたたまれない』ようです

49. 姫は『いたたまれない』ようです




『Fmすたーフェスティバル』が終わって1週間がたつ。世間は夏休みに入るので、基本Vtuberなどの配信者は、この時期に1日に複数回配信したり、長時間耐久配信などをしたりする人が多い。それはもちろん、チャンネル登録者を増やせるチャンスがあるからだ。


 そんな中、オレは鈴町さんと共に事務所に呼ばれる。なにやらプロサッカーチームとのコラボ案件があるらしい。


「えっと……どうして……私たちなんですかね?」


「鈴町さんは毎回言ってないかそのセリフ。今回はましのんの他にもライバーさんが呼ばれてるから。ちなみに『姫宮ましろ』は欠席ということになってるから、オレは『双葉かのん』のマネージャーとして参加」


「なるほど……なんか色々複雑ですね……」


「だろ?でも今回の案件は大手だし、この先も繋がるかもしれないから、頑張っていこう」


「ましろん先輩が……いるなら頑張りますけど……」


 そして控え室に入るとまだ誰も来ていないようだった。なのでオレはパソコンを開き色々確認することにする。鈴町さんはカバンからポストカードを取り出し、サインを書き始める。これは双葉かのんオリ曲の『フェアリーテイル』ご購入特典か……


 そんなことをしながら誰かが来るのを待っているが、その間も鈴町さんとは一切会話がない。うぅ……気まずいなぁ……。するとそこに1人女性が入ってくる。


「失礼します。お疲れ様です……」


 見た目は20代半ばくらいの女性で、身長はやや高めでモデル体型。服装はラフな感じだが清潔感があり、髪型はストレート。そして眼鏡をかけている。鈴町さんは席を立ち上がるが緊張しているのか無言のままだ。


「こんにちは……もしかして……かのんちゃんとマネージャーさん?」


「は。はい……双葉かのん……です」


「はい。双葉かのんのマネージャーの神崎颯太です」


「やっぱり。私は神川ひなたです。この前のサムネの時は連絡ありがとね」


 オレも初めて会うのだが……この人が『姫宮ましろ』の同期のひなたさんなのか……イメージ通りというのか、ふんわりとした雰囲気のお姉さんと言ったところだろうか。なんか……オレのほうが緊張してきたんだが……


「いつもはコンタクトなんだけど急いでたからそのまま来ちゃった。似合うかな?」


「あっ……はい。その……お綺麗です」


「ありがと。ごめんサインの邪魔しちゃったね。続けて」


 そう言って席に座ると、ひなたさんも持ってきた荷物からノートPCを取り出し、作業をし始める。


「そう言えばかのんちゃん。聞いてもいいかな?」


「え。あ。……はい」


「ましろちゃんってさ……どんな人?」


 その言葉に思わずドキッとする。なぜひなたさんはそんなことを聞くんだ?まさか何か知っているのでは?鈴町さんはチラッとオレのほうを見るが助けてあげられる状況じゃない……頼むからボロだけは出さないでくれよ鈴町さん。


「あの……どういう意味で……ですか?」


「……私がましろちゃんに会ったのはデビューする前。彼女はその時今どきのギャルみたいな子だったの。だからさ……今のましろちゃんと全然イメージ違うでしょ?正直、ましろちゃんの初配信の時から思ってたんだよね。でも私以外の同期はあんまり気にしていないみたいだから言わないんだけどさ」


 そりゃ別人が喋っているんだから、違っていて当たり前だろう。しかも男がだ。その質問はクリティカルなんだが……。パソコンにディスコード通知が来るが鈴町さんとひなたさんが気になってそれどころじゃない。


「えっと……」


「ごめん。変なこと聞いちゃったね。ただ……ましろちゃんは変わったなって。かのんちゃんと『ましのん』になってから。こう……同じ目標に一緒に歩いてくれるようになったというか、頼りになる存在になったなぁ……なんてね。だから気になってたの」


「ましろん先輩は……凄い人です……優しくて……リスナーさんのことも凄く大事にしてるし……それに……私の相談にも乗ってくれたりして……その……凄い尊敬できる人で……憧れの先輩……です」


「ましのんてぇてぇだもんね?」


「てぇてぇ……です」


 なんか、リリィさんもポアロさんも言っていたけど……オレは本当に変われたんだな。だからこそ……今いたたまれない気持ちになる。オレは本当に今のまま『姫宮ましろ』でいいのかと。

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