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40. 後輩ちゃんは『考えていた』らしいです

40. 後輩ちゃんは『考えていた』らしいです




 それから数日後。AMEさんから新曲のデモが完成したとの連絡があったのでその音源を送ってもらった。


 そしてオレと鈴町さんは自宅のリビングでイヤホンをしてその曲を聴いている。


「……疾走感があるけど、とても綺麗で可愛らしい感じの曲だな」


「はい……素敵です」


 その曲はまさに『双葉かのん』をイメージして作られた曲。『ホワイトプリンセス』よりも明るい曲調で、歌詞も大好きなお姫様のために頑張るという感じの内容だった。


 すごくいい曲だと思う。しかし……これを鈴町さんが歌うとなると一体どんな感じになるのか。正直全く想像ができないけど……


「あのましろん先輩……ここの歌詞……空白なんですけど?」


「あっそうだ。AMEさんから、そこは鈴町さんに考えてほしいそうだよ。ラストのサビにつながる部分らしい」


 そういうと鈴町さんは考える素振りもなくすぐに声に出して呟いた。


「『一緒なら幸せになれるから……信じてお姫様』……」


「おお……すごいな……」


「あ。はっ……はっ……恥ずかしい」


 鈴町さんの顔がみるみると真っ赤に染まっていく。そして勢いよく俯く。まるでリンゴみたいだ。


「こっこれは……その……」


「いや鈴町さんらしくていいと思うけど。あと曲名もまだないから鈴町さんにお願いしたいそうだぞ」


「曲名は前から決めてました『フェアリーテイル』……一応……おとぎ話って意味です。フェアリーは……妖精って意味もありますし」


「おお……なんか……すごいな鈴町さん」


「Fmすたーらいぶの3期生でデビューした時から……いつか……オリ曲を出す時がきたら……そうしようと考えてました……」


 鈴町さんは少し恥ずかしそうにでも誇らしそうに言った。オレは勘違いをしていたのかもしれない。この前の玲奈ちゃんも、今の鈴町さんもVtuberとしてのやりたいことやビジョンをしっかり持っているんだ。それは他のライバーさんも同じだろう。


 オレは……今まで何もなかった。だからこそ今は『双葉かのん』……鈴町さんと共に頑張りたいんだ。


「それじゃAMEさんに返信しておくよ」


「はい……よろしく……お願いします」


 そして更に数日後、ついに『双葉かのん』のデビュー曲『フェアリーテイル』が完成した。完成された曲を改めて聴くと、やっぱりAMEさんの楽曲は素晴らしいと思った。ちなみに空白の歌詞は鈴町さんの希望通りになっていた。


 鈴町さんはというと、何度もリピートして聴いたり、パソコンやスマホに入れて音楽ファイルの楽曲を再生して聴いている。


「鈴町さん。歌えそう?」


「はっはい。何回か歌ってみたんですけど……違和感なく歌えると思います。それにしても……この曲……本当にいいですね……」


「良かったな。オレもいい曲だと思ってるよ。早く鈴町さんの歌声で聴いてみたいな」


「私も……早く歌いたいです……」


 鈴町さんは目を輝かせながら言う。よっぽど楽しみなんだろうな。オレもその日が来るのを心待ちにしている。


 ちなみに、Fmすたーらいぶの事務所の方針で、新期生Vtuberは基本的に毎年夏に行われる、ライバー全員参加の歌の祭典『Fmすたーフェスティバル』でオリ曲の発表と共に初解禁の予定になっている。


 Fmすたーフェスティバル。毎年夏に行われる歌の祭典で在籍タレントVtuberが全員参加する3Dイベントである。各地のライブビューイングやYouTubeでのライブ配信も行われる夏の大舞台。ライブ仕様のステージがあり、そこで新期生は新曲を発表したり、色々なユニットの歌を披露する。実際リアルタイムではなく収録なので、オレも参加している。


 その日に合わせてレコーディングや、ボイストレーニングとダンスレッスンがスケジュールに入ってくる。これから色々と忙しくなってくるな。だから『姫宮ましろ』として自分自身を、『双葉かのん』のマネージャーとして鈴町さんを支えてやらないとな。

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