32. 後輩ちゃんは『ボイス』がほしいそうです
そして『ましのん』の記念すべき初企画配信の日がやってくる。Twitterに告知を上げ、今回の配信に使う質問をリスナーから募集しておく。もちろん『双葉かのん』のTwitterでも募集している。
そんなこんなでオレが配信準備をしていると鈴町さんが部屋にやってくる。
「ましろん先輩」
「どうした鈴町さん?」
「今日は一緒……じゃないんですよね……」
「え?あー。回線繋いでのコラボになるからな」
そういや鈴町さんとはオフコラボしかしたことないな。だから隣にいないのは初めてかもしれない。普通はいないのが当たり前だけど。というか部屋が違うだけで同じ家にはいるんだが……
「その……えっと……あの……はっ……はっはっ……はっ……」
「落ち着こうか鈴町さん……」
「あ。……その……少し……お願いしたいことが……」
「お願いしたいこと?」
なんだろ?珍しいな。鈴町さんが何か頼みごとなんて初めてじゃないか? まぁ断る理由もないし、可愛いFmすたーらいぶの後輩からの頼みだ。聞いてあげよう。
「……せんか?」
「聞こえないけど……」
「ぼ!……ボイスをくれませんか?……その……『姫宮ましろ』のましろん先輩の……」
「え?」
一瞬何を言われたのか理解できなかった。どういうこと?なんで急に『姫宮ましろ』の声なんか欲しくなったんだろう? う~む……謎だ。それにしてもボイスって……ちょっと恥ずかしいな……。まぁいいか。特に減るもんでもないし。
「なにを録音すればいいんだ?」
「えっと……かのんちゃん今日も頑張ろうね的な……」
「いや……それを録音してどうするの?」
「その……ましろん先輩が一緒にいてくれるような気がするので……頑張れる……ので」
そういうものなのか?よくわからないが本人がそれでやる気が出るなら別に構わないだろう。早速マイクに向かい収録を始める。ちなみに台本はない。こういうものは雰囲気作りが一番大切だと思うのだ。
「……かのんちゃん。いつもありがとう。今日も配信頑張ろうね」
自分でやっておいてなんだが結構恥ずかしいなこれ。でもこれで鈴町さんのモチベーションが上がるなら安いものだけど……。そのデータを鈴町さんに送ると鈴町さんはモジモジしながらお礼を言ってきた。
「あ、ありがとう……ございます。大切にします……」
そこまで言われるとこっちまで照れてしまうではないか。本当に鈴町さんは『姫宮ましろ』が好きなんだな……その『姫宮ましろ』はオレなんだけどさ。
そのまま鈴町さんは自分の部屋に戻っていったのだが、その顔はとても晴れやかな表情をしていたように思えた。それだけ喜んでくれたなら頑張った甲斐があったというものだ。
それから時間が経ちいよいよコラボ配信が始まる15分前となった。オレも緊張してきたぞ。大丈夫だろうか?変なこと言わないように気を付けないとな。
ディスコードを開き、待機ルームへ飛ぶ。すると全員揃っていたのでとりあえず挨拶だけでもしておくか。そう思いチャットを送る。
ましろ:「こんばんはリリィさんとソフィアちゃん。『ましのん』配信に来てくれてありがとう。」
リリィ:「いえいえ。楽しみにしてるよ」
ソフィア:「こんばんわです。姫先輩、リリィママ初めまして。今日はよろしくお願いします。」
ましろ:「かのんちゃんはいる?」
かのん:「います!(((・・;)」
ましろ:「よかった。今日はよろしくね。」
かのん:「はい!こちらこそお願いします!」
うん。よし。問題なしだな。あとは配信開始を待つだけだ。時計を見ると既に1分前となっていた。