29. 姫は『変わった』みたいです
そして次の日、オレは朝早く起きて、昨日の夜遅くまで作った企画書を桃姉さんに提出し、OKを貰うことが出来た。
企画内容は『同期の絆を試したい!ましのんバトル』というものだ。同期のライバーを1名ずつゲストに呼び、それぞれお題の質問に答えて一致するか対決する。つまり『姫宮ましろ』と『双葉かのん』の同期。だからオレは1期生の誰かを誘わないといけない。
パソコンでFmすたーらいぶ内のスケジュールを確認する。これはライバー同士が確認できる簡易的なスケジュールだ。これで凸待ちや逆凸ができる人も分かるし、配信時間を被らせないようにもできる。
「週末の配信時間は19時だから……空いている人は……」
ちなみにFmすたーらいぶのルールとして『同期の配信時間』だけは絶対に被らせないようにしている。これは『箱推し』リスナーや切り抜き師への配慮である。あとは事務所の戦略でもある。
とりあえずオレは1期生の予定を確認していく。正直、この2年間同期のライバーですら交流がない。まるでコラボ解禁した新人と同じだ。
「そう考えたら……鈴町さんのことを誘ったのが初めてだったんだよなぁ……緊張してきたぞ……鈴町さんじゃないけど」
いつもは鈴町さんに『自分でやらせている』けど、実際自分が同じ立場にたったら緊張してしまっているオレがいる。
「もしかして……オレも陰キャでコミュ障なのか……?いやオレは普通だ。そうだ相手が女性だから緊張しているだけだ」
そんな独り言を言いながら、オレはスケジュール表を見ながら、誰にするか考えていた。オレの同期は、初ましのんオフコラボの時に来てくれた『魔月リリィ』、この前サムネをお願いした『神川ひなた』、そして『青嶋ポアロ』の3人だ。
青嶋ポアロ。オレこと『姫宮ましろ』の同期でFmすたーらいぶの1期生。栗毛のボブでポアロという名前なのに格好はまるでシャーロックホームズのような服装をしている。普段は明るくて人懐っこいのだが、罰ゲームなどがかかると容赦のないドSキャラになる。コンセプトは『Fmすたーらいぶの闇を暴く名探偵』らしい。得意な配信は耐久ゲーム配信でRPGなどをぶっ続けて配信することもある。
「とりあえず連絡してみるしかないよな。よし!」
オレはディスコードを開き、『姫宮ましろです。お久しぶりです。来週の週末土曜日19時にましのんの配信の企画で参加してほしいのですが、ご予定が空いている方はいますか?』と1期生にメッセージを送る。
すると数分後、全員から返信がきた。リリィさんからは……
『あら?最近絡んでくれるわね?私で良ければ喜んで参加するわよ』
と返ってきた。
次にポアロさんからも返事がくる。
『姫からのお誘いガチ!?明日雪降ったりしてwww。あーポアロはその日、ゲーム配信入っちゃう(。・_・。)。流れ配信だから……外せなくて!ごめん姫!また誘って!』
最後にひなたさんから……
『ごめんなさいましろちゃん。ひなた、プライベートで用事があって行けないの。また誘ってね』
と来た。
急に連絡したのにみんな優しいよな。オレはその日大丈夫そうなリリィさんに『今、お忙しいですか?通話よろしいですか?』とメッセージを送ると、『作業中だから大丈夫』と返信が来たので連絡をすることにする。
「ヤバい……めちゃくちゃ緊張するな……」
オレは深呼吸をして、通話ボタンを押す。
《もしもしましろ?》
「あの……突然すいません」
《全然いいわよ。どうしたの?》
「リリィさんにコラボお願いしたいなと思って」
《え……そ、そうなの?さっきの件よね?何かましろから誘われると照れるわね……で、どんな企画なの?》
オレはそのまま企画をリリィさんに説明する。というかリリィさん配信だとセンシティブお姉さんなのに裏だと本当に優しい。リスナーからは良くリリィママなんて呼ばれてるけど、本当にママのような包容力がある。
《な、なんか凄い企画ねぇ……でも楽しそうよね。うん、私も参加するわ》
「ありがとうございますリリィさん」
《あのさましろ》
「はい?」
《なんか……最近のましろ変わったわね。配信もはっちゃけてて楽しそうだし、同期の私も嬉しいわ。前のましろも清楚で好きだけど、私は今のましろも好きよ。今回頼ってくれてありがとね。》
変わった。確かに変わったんだ。鈴町さんに出会ってオレは変われたんだ。彼女のおかげでオレはVtuberが楽しいと思えた。
「……今はすごく楽しいよ。もっと早くリリィさんや他の1期生、そしてFmすたーらいぶのライバーさんと交流すれば良かったと少し後悔してる」
《まさか、ましろからそんな言葉が聞けるとはね。でもまだまだ私たちはこれからでしょ。当日楽しみにしてる。じゃあね》
そう言ってリリィさんとの通話は終わった。大きく息を吐きながらオレは安堵する。すごい緊張したし手汗がヤバい……あとで鈴町さんに優しくしてあげよう。