27. 姫はJKちゃんの『プロ意識』に感銘する
「ところで……颯太さんって『姫宮ましろ』先輩に会ったことありますか?」
「え?」
「かのんちゃんがユニット組んでるから会ったことありますよね?どんな人なんですか?」
「なんでそんなこと聞くんだ?」
「だって謎だから。私がデビューして半年以上たちますけど……姫先輩には一度もお会いしたことないし、話したこともありません」
でも彼女の言いたいことは分かる。彼女は3期生の中では一番チャンネル登録者数も多く、ファンからの人気も高い。それは彼女が努力家で、配信やSNSの投稿内容や更新頻度が高めであることに加えて、その親しみやすい性格や明るいキャラクター性があるからだ。
Fmすたーらいぶのライバー同士はお互いのことを結構認知していて、同期や先輩との絡みは積極的に行っていたり、裏で遊んだり、オフコラボの企画を立てたりと仲良くしているライバーが多いのも知ってはいる。でもオレは男だから他のライバーと絡む機会なんてない。
「いや忙しいんじゃないかな?」
「いやいや。姫先輩は確かに多忙なのかもしれないですけど、配信やSNSの更新は他のライバーさんの方がこまめにしてます。それにコラボ配信の話も企画物の収録にも全然出て来ませんし、そもそも事務所にもほとんど顔出してません。私も気にはなってたんです。あの姫先輩がどうしてここまで話題に上がらないのかって」
まずいぞ……なんか疑ってるのか、オレをジト目で見てくるし、この話題は早く変えないと……
「まあ色々事情はあるんじゃない?ほら姫宮さんはFmすたーらいぶのエースみたいな存在だから、それに今は『双葉かのん』とユニット組んだしさ」
自分でエースとか笑えるが、そこまで嘘でもないと思うし、あながち間違いではないはずだ。すると玲奈ちゃんは真剣な表情でオレを見つめてきた。そして衝撃の一言を言い放ったのだ。
「颯太さん。私、姫先輩とコラボしたいんです。なんとか取り付けて貰えないですか?」
その言葉を聞いた瞬間、オレは驚きのあまり飲もうとしていたコーヒーを吹き出しそうになった。
「ごほっげふっ!ちょっ待って!?何でそうなったの?」
「コラボをしたいんです。もっとチャンネル登録者を増やしたい。それに先輩方と色々絡みたいし」
「コラボ?」
「はい。私は高校生ですから、学校から帰って夕方から配信準備をして夜に活動することが多いんです。でもFmすたーらいぶの先輩方は、もっと深夜に活動している方が多くて、正直平日だとなかなか会えません」
そうか……確かに学生の彼女からすれば、社会人であるFmすたーらいぶのライバーとは時間的に合わないのだろう。
「私は……もっともっと有名になる……自分の力だけで生きていくために……そのためにもFmすたーらいぶで1番になりたい。だから今人気の姫先輩と一緒に配信が出来れば、きっとファンの方たちも喜んでくれるし、知名度も上がると思います。かのんちゃんがユニットを組んだことは同期として嬉しいですけど……悔しい気持ちもありますから」
そう言った玲奈ちゃんはとても力強く、そして本気なんだと感じた。しかし、いきなり玲奈ちゃんとのマンツーでのコラボは厳しいような気もする。
「それなら……『ましのん』の枠でコラボしてみるか?」
「え?颯太さんが決められるんですか?」
「あっいや……実はまだ内緒なんだけど、『ましのん』の枠では色々な企画を予定していて、定期的にFmすたーらいぶ内のライバーさんを呼んで配信することになってるんだよ。それで良かったらどうだろうと思って」
これは本当のことだ。この前の打ち合わせで決まったことで、『姫宮ましろ』と『双葉かのん』にとっても他のライバーさんとのコラボは効果があるからな。まぁ鈴町さんはそれを聞いたとき顔が青ざめていたけど……
「それなら……私を呼んでください。お願いします!」
「分かった。提案はしてみるよ。」
「ありがとうございます。楽しみにしてますね」
それからしばらく玲奈ちゃんと話してから、オレたちは別れた。まさか玲奈ちゃんがあんなこと言うなんてな……ただの女子高生だと思っていたけど……プロ意識が高い子だ。
「そりゃ人気もでるよな……オレも鈴町さんも頑張らないとな」
オレはそんなことを考えながら帰路についた。