14. 期間限定ユニット『ましのん』
配信が終わり、機材の片付けをしてリビングに行く。
「オフコラボお疲れ様2人とも。普段とは違う新しい『姫宮ましろ』と『双葉かのん』が見れたし、反響もすごいわね」
「ああ。それは鈴町さんのおかげだよ。オレは彼女のサポートをしただけだ」
「あの……ましろん先輩……あっありがとう……ございました……」
鈴町さんは小さな声でそう言った。少し恥ずかしかったのか頬が赤い。それを見て、オレは微笑ましく思う。
そのあと、鈴町さんの希望通り出前の寿司を食べながら桃姉さんと鈴町さんと共に今回の配信の話をする。
そして今までとは違い、配信の話をしているこの時間が楽しいと思えるのはきっと同じFmすたーらいぶの仲間であり、Vtuberの鈴町さんのおかげだろう。オレは『双葉かのん』のファンになっているのかもしれない。そんなことを考えながら鈴町さんのことを見ていると、目が合ってしまう。
「え?……あ。あの……すっ……すいません」
「なんで謝るんだ?」
「私ばかり……お寿司……食べてるから……その……」
「あのさ鈴町さん。君は周りを気にしすぎだ。もっとわがままを言ってもいいと思うぞ?」
「そうよかのんちゃん。もうあなたたちは『ましのん』コンビなんだから遠慮はいらないのよ」
桃姉さんはニヤリと笑う。これは何か企んでる顔だな。
「……なんか含みのある言い方なんだが?」
「あれ?言ってなかったっけ。あなたたちは事務所公式に期間限定でユニットを組ませて売り出すことになったのよ」
…………は?今なんて?
「まあ簡単に言えば、事務所の戦略ね。期間限定で『ましのん』として活動するの」
「……いつから?」
「今から」
「「はい!?」」
2人の声がハモった。そりゃ驚くわな。
「ほら。ちょうどいい機会だし、お互いにお寿司で親睦を深めたらどうかしら?」
「いやいや。急すぎる。それに鈴町さんは大丈夫なのか?こういうのって準備とかあるんじゃ?」
「そんなのプロなんだから大丈夫でしょ。それとかのんちゃんにはこの家に引っ越してもらうけど大丈夫よね?引っ越し代は出すし、部屋は余ってるから」
……はい?すると鈴町さんのがオドオドし始めていく。その気持ちはよくわかるよ。いきなりすぎてついていけないもんな。
「そして事務所としては、颯太、あんたに『双葉かのん』のプロデュースを頼みたいのよ。人手不足だからね。同じVtuber同士その方が色々とやりやすいでしょ?あなたはVtuber『姫宮ましろ』兼『双葉かのん』のマネージャーをやりなさい」
「いやプロデュースって……」
「この突発的なオフコラボは大成功したわ。世間は今『ましのん』の話題で持ちきりよ。最初は私もフォローをするし、『双葉かのん』をトップVtuberにしてあげて。」
確かにそうだ。Vtuberをプロデュースするのは初めてだが、やるからには中途半端ではなくしっかりとやりたい。
「それに、あんたは素性を隠しているんだから、今まで事務所に行くのも面倒だったでしょ?でも『双葉かのん』のマネージャーなら問題ないし、なにより『ましのん』として動くときは必然的に一緒にいる時間が増える。だからこっちの方が都合がいいのよ」
そこまで考えてのことだったのか……。相変わらず抜け目がないな。でも、好都合なのは事実かもしれない。オレは彼女ならトップVtuberになれると思っているから。たった2年だけど、オレの培ったVtuberとしての仕事を教えてあげたい。
「鈴町さんはどうなんだ?オレはマネージャーの経験はないから1から頑張ることになるけど?でも……鈴町さんさえ良ければオレは頑張りたい」
すると鈴町さんはオドオドしながらも真っ直ぐにオレの目を見ていた。まるで覚悟を決めたかのように。
「あ……あの……私は……いいと思います……せっかく……ましろん先輩と一緒に活動できるなら……頑張りたい……です」
「……なら親睦を深めるか。これからよろしく頼む鈴町さん。いや、かのんちゃん」
オレは手を差し出した。彼女は少し驚いた様子だったがすぐに笑顔になり握手してくれた。
「はい……こちらこそ……お願いします」
「お皿貸して。何食べる?」
「海老……あと……玉子……」
「おう」
こうしてオレたちの期間限定ユニット『ましのん』が結成され活動が始まったのだった。