7. 姫は『プロデュース』するようです
鈴町彩芽さんのことが何となく分かってきたオレは、彼女がVtuberを目指した理由を聞いて、自分が今何をすべきなのかが見えてきた。そしてふと無意識に鈴町さんに言葉をかけていた。
「……立派な理由だな。応援したいって思ったよ」
「え?あ。ありがとう……ござい……ます」
そして、これは社交辞令で言ったわけじゃない。理由は人それぞれあるけど、鈴町さんは本当にVtuberとしての使命を全うしようとしているように見えた。だからこそ、この企画を成功させれば、間違いなくその夢に向かって大きな一歩を踏み出せるはずだ。
「よし。そのためにはまずはオフコラボを成功させないとな。正直『姫宮ましろ』の枠では朝の雑談配信が無難だろうな。そして……『双葉かのん』の枠で何をするかが重要だ」
そう。問題はそこだ。『双葉かのん』の配信傾向から考えても正直インパクトのあるものがない。喋りが下手な訳じゃないし、歌やゲーム配信なども問題はないが、ただ『それだけ』だ。それを配信したとしても意味はないし爆発力に欠ける。せっかくの期待値が高まっているチャンスが水の泡になってしまう。
「何かやりたいことあるか?」
すると彼女は下を向いて黙り込んでしまった。やはり簡単には出てこないか。でもここで背中を押してやれるのも先輩のオレの役目だ。
「えっと……『双葉かのん』はどういうコンセプトなんだっけか?」
「Fmすたーらいぶの風紀を守るがんばり屋の妖精……です」
「ならそれを活かした配信にしよう」
「え……?」
「ほら紙とペンを出せ」
オレにそう言われて素直に紙とペンを取り出す鈴町さん。そしてオレの案を書き出していく。
「まず軽く『姫宮ましろ』の配信に言及する」
「ましろん先輩のですか!?」
「当たり前だろ。ここで『双葉かのん』のFmすたーらいぶの風紀を守るというキャラクターをアピールしろ。今後役に立つからな。せっかくのコラボだ。リスナーを喜ばせる企画にしないと」
「むむむ無理……です……私が……『親衛隊』なのに……ましろん先輩に言及なんて……」
「だから良いんだろうが。それに『姫宮ましろ』に憧れてるのは鈴町さんであって『双葉かのん』じゃないだろう?」
「あ。……そ……です」
「鈴町さんは『姫宮ましろ』みたいになりたいんだろ?」
そう言うと、鈴町さんは目をキラキラさせながら、オレの書いた内容を書いてそれを読んでいく。どうやら彼女の中で何かが変わったようだ。憧れは目標に変わる。それが明確になったとき人は成長できるのだ。
企画書を作っている間も鈴町さんはほとんど会話してくれていなかったけど、意思表示はしてくれた。それからしばらくして企画書を書き上げた。
「……これ……いいかも」
「だろ?これでいこう」
「あの……ましろん先輩の……迷惑にならないでしょうか?」
「むしろプラスになる。おそらくだが、『姫宮ましろ』は清楚キャラが浸透している。でも実際演じてるオレは男だし、清楚とは程遠い。約2年間守り続けてきたが、ここで多少キャラを崩したほうがオレも今後やりやすいし、反響は間違いなくある。だからこれはお互いに必要なことなんだ」
「わ……わか……りました。頑張って……みます」
「大丈夫だ。きっと上手くいく。あとは……」
そう言って、オレは最後に1番大事なことを彼女に告げた。
「オレたちが楽しもう!そして多くの人に伝えるんだ。この2人のコラボが成功すれば絶対にファンは増える。その勢いに乗って一気に駆け上がろう!」
鈴町さんは大きく頷く。こうしてオレたちの企画が決まった。