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第94話 同窓会③

 タネが割れたら割れたで、ムキになった脳筋組が正攻法でなんとか資金稼ぎを終わらせた頃、小腹が空いたと何かを食いに行くことに。


 小銭ではないくらいの稼ぎで豪遊。

 20歳を超えてるのでアルコールで乾杯し、つまみのスルメを口に入れる。


 伊藤は獣人になってから人の頃に好きだった食事は苦手になり、どっちかと言えば血の滴る肉とかの方が好物になったと言う。

 残念だがユッケはこっちの世界でもアウトらしく、居酒屋で馬刺しをくちゃくちゃしながらぼんやりしてる。


 麻生は分かるわーと伊藤の肩を叩く。

 お嫁さんの炎帝とやらも肉は生で食うらしく、麻生も生で食して何度も腹を壊したらしい。

 そこで腹を下さない食べ方談義に花を咲かせ、そこに吉田さんが絡み酒で割って入る。

 彼女の場合はいるだけで呪いも毒も跳ね返すので腹痛知らずだろう。その前にアタック相手が種族の壁的に無理だろうことを除けばだが。

 しかし目の前には人間でありながら、ドラゴンと結婚して子供を作った麻生がいる。

 是非その馴れ初めを聞きたいと絡んできたのだそうだ。


 あー、そう言うね。

 なお、麻生の場合は相手が小学生ぐらいの背丈になったので解決したらしいが、キマイラが人化するとか聞いたことがない。

 小学生に手を出したらダメだろうとはあえて言わない。

 年齢は1500歳も上らしいので姉さん女房だとかですっかり尻に敷かれてるらしい。


 そういえば城島さんはどうなの?

 話しを振れば、じろっと睨まれた。

 つまりこの話題は厳禁なのだろう。


「しかし、磯貝君も幅広く手掛けてるようじゃないの。異世界トラベルの他にダンジョンマスターなんかやってるなんて」

「後者の方はほぼ趣味だけどな。今は自分のところより後続の育成を頑張ってる感じだよ」

「ダンジョンって、そんな片手間で運営できるもんなの?」


 城島さんからじっと睨まれる。


「興味あるの?」

「ないとは言い切れないけど、そうね。少しだけ、あるわ」

「ニムベスほど極端ではないけど、俺はダンジョンを信用しすぎてもあれな気がするけど」

「あれな気がする、とは?」

「実はダンジョンてさ──」


 俺は持論を述べる。

 城島さんは考え込むように顎に手を添え。

 それでもやりがいはありそうなのよね、と決意を胸にする。


「決意が固いなら俺は止めないけどさ。コアからの情報は程々に引いて聞いてた方がいいぞ? 後ダンジョンマスターになるとマスター同士でランキング争いがあるな」

「ランキング?」

「そ、マナポイントの獲得数でランキングが発表されて、上位トップ点が下位ランクのダンジョンの支配権を持つ」

「マナの献上率によって報酬が配られるのね?」

「つっても上り詰めても社長にはなれんぜ? 基本雇用関係で、失敗したら命での生産が待ってる。ダンジョンマスターが消えてもダンジョンは消えず、コアが受け継がれてマスターはコアを砕いたラストアタックのシーカーへと譲渡される」

「……それ、実質人間辞めてまでやるモノではないわね」

「うん、まあやらないことをお勧めするよ。俺は美玲さんのマナ回復チートでトップ街道を爆走してるので余裕があるけど、シーカー上がりのマスターはどこもカツカツでさ」

「そうでしょうね。ハァ、どこかやりがいのある職場はないかしら?」


 ため息をつく城島さんに、俺は木村を通じて堺ダンジョンさんを紹介した。

 彼女はアイディアマンだ。

 木村の企画力の穴を即座につき、代替え案を提案して新しく堺ダンジョンに名物が生まれる。


「ありがとう、磯貝君。まさか人類の敵と木村君が組んでお金稼ぎしてるなんて思わなかったわ。クラスメイトのよしみで色々融通してもらえて私、新しい労働環境を開けそうだわ」

「気に入ってくれたら何より。堺さんは下野とも提携してるので元の世界に帰るならあいつの次元門で移動するといい」

「磯貝君はこっちにつきっきりではないの?」

「俺は趣味でやってるからなあ。いなくてもこの世界が回るように後続を育ててたんだよ。俺も交換留学先が消滅したら後味悪いしさ」

「そう言うこと。そういえばこの世界が開かれた原因になった方達は今どちらに?」

「あっ!」


 俺は二年以上放っておいたエスペルエムの勇者君、エイジを今になって思い出す。

 確かあの世界、アトランザの40倍で時が進むんだよな?

 つーことはもう80年?


 やっベー。連れてきてもおじいちゃんになってるじゃん。

 最悪死んでる可能性すらあるぞ?


 一人顔を青くする俺に、城島さんが首を傾げる。

 ありのままの情報を彼女に告げると、無言で頭を叩かれた。

 俺が悪いのか!?


 急いで呼び戻してらっしゃいと言われて呼び出せば。

 何故か誰かのお墓で咽び泣くお爺ちゃんとお婆ちゃんがいた。


 あれ? 誰だこいつら。


「おや? ここは……」

「エイジさん、私達元の世界に帰って来れたようですよ」

「でも、雪乃と香が……」


 確かその名前は幼馴染とクラスメイト?

 そう言えばもう一人のクラスメイトは?


「なあ、お前エイジなのか?」

「そう言う君は……変わらないね、アキラ。君はあの時のままか。あれから80年経った。僕たちはステータスのおかげで長生きできてるけど、一緒に来た子は戦時中に……」

「やっぱりエイジだったんだな。その、とっくに目処がついてたのに戻すの忘れててごめんな?」


 エイジは首を横に振る。


「いいんだ、僕たちはあの世界で生きると決めたんだ。彼女も一緒に」

「彼女は?」

「分からないかい? クリスだよ」


 あの高慢ちきな子か。

 今ではすっかり皺枯れて面影が見えない。

 会釈だけして、墓へ向き直った。

 まるで死ぬ時期を見計らってるかのようだ。


「これ、時を巻き戻せないの?」

「それ、俺の能力の範疇外だぞ?」

「魔法にそう言うトンデモなやつありそうなモノだけど」

「残念ながらジャキンガルで俺も魔法適正地しかなかったから」


 そこへ、飲んだくれ亭主達がやってきて、俺たちに絡んでくる。

 こいつらまだ飲んでたのかよ。まぁ堺ダンジョンに行って帰ってくるまで秒だったけどさ。


「さっき時空魔法がどうとか聞こえたけど?」

「あー、時間巻き戻す系の魔法の使い手とか岡戸知らない?」

「僕は残念ながらそっちの属性とは縁遠くてね。でも確か、桂木先生がそっち系だったよ? アイテムバッグって時空系だった筈だし」


 よりによってあの人かよ。

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