伊藤がバカやってる横で、田所が少年誌に手を出してパラパラとめくる。
「わー知ってる作品なんもねぇ!」
そりゃそうだろ。俺たちの世界と違うんだ。
「あれ、でも向こうで打ち切りになったコミックの続刊があるのは不思議な気分だ」
「全く違うわけじゃないんだよな。似てる部分はあるよ。アイスとかドリンクとかも新製品の種類こそ違えど元は似てるし」
「わー、懐かしい」
「あ、これ向こうで生産中止になったシャンプーだ。こっちでは中止になってないんだね。これ買いたいなー。チラチラ」
田所がコミックに夢中になってる横で、吉田さんが流し目で俺にお小遣いを強請ってくる。
はいはい、いくら欲しいの?
千円あれば足りる? はい。
「わーい、やったー! 磯貝君、太っ腹だね」
「あっくん、あんまり甘やかしちゃダメだぞー? 吉りんは浪費癖があるから」
え、そうなの?
じゃあ控えとこ。
「ちょちょちょちょ、美玲ちゃん、根も葉もない嘘言わないで〜?」
「高校時代、買い食いに誘ったら3,000円も使ったおバカはどこの誰でしたっけ?」
「違うの! あれはたまたま欲しい商品が被っちゃっただけで!」
放課後の買い食いで3,000円は確かにヤバいな。
カラオケで割り勘したってそこまでは飛ばないだろうに。
美玲さん曰く、その日だけで消費した後翌日は違う商品で似たような額を叩き出したそうで。
一緒にいると金銭感覚が狂うともっぱらの噂だった。
その事実に当時思いを寄せていた伊藤、麻生でさえドン引きで。
「ちょっと〜、二人して引かなくてもいいでしょ〜」
「吉田さんの本性見たり! って感じだな」
「赤城さんはもっと使うけど、吉田さんと比べるまでもないと言うか」
「そう、それ! 私はさくらちゃんの浪費癖に感化されたって言うか、これぐらいならなんとかお小遣いの範囲で回せるって言うか、ね?」
そう言うのは自分の稼ぎでやりなさい。
人から借りて同じ感覚でやられたらたまんないっつーの。
赤城さんは、まあ相変わらず貢がれたお金での豪遊って感じだろうか?
田所に渡したらストレートに赤城さんに渡りそうな気がする。
ファン心理というのは未だによくわからんが、美玲さんの言う推し活と言うやつだろう。
「磯貝〜どこかで飯食ってこうぜ」
「観光するにしたって自由にできるお金が必要よね?」
桂木先生と城島さんが揃って喚き出す。
「じゃあみんなでシーカーになろっか」
「シーカー?」
「そう言えばこっちにもダンジョンあるんだっけか?」
「エムベス産の殺戮ダンジョンとは違い、どっちかと言えばエンタメ系のがあるぞ」
「肩透かし喰らわないといいけどな」
「私でもやれるかしら?」
「強すぎる人にも、全く能力ない人にもちょうどよく遊べて稼げる場所があるんだ」
そう言って、俺はクラスメイトに一日シーカー体験をさせてみた。
まぁ俺の管轄するダンジョンで、伊藤や田所、麻生、岡戸、桂木先生は奥に行きすぎたらマナを奪って生還させる方法でお帰りいただく。対して無能力者の城島さんなんかは投石でゴブリン狙ってレベルアップ。中ボス部屋でドロップしたアイテムを換金したらいい感じに稼げるだろ。
そこで予想外のことが起きた。
「ねぇ、磯貝君」
「なに、城島さん?」
「あなたこのダンジョンとどう言うつながりが?」
どうやら城島さんの『鑑定』が俺の素性を明らかにしてしまったらしい。参ったな。
「あっくんはね、このダンジョンのオーナーさんなんだ」
「オーナー、ね。モノの例えとしては間違ってないわね。所有物で安全は確保されてる。そう思っていいのね?」
「そこは保証するよ。お金は稼げるともっぱらの噂だ」
「分かったわ、今は信じるしかないものね」
「トモ君、私ダンジョンて初めてきたのだけど」
「嘘ついちゃダメだよ、かな。エムベスの千年樹の実を大量生産したのを忘れたの?」
下野夫婦は相変わらずマイペースでいちゃついてる。
ちなみにうちのアトラクションの管理者はこの夫妻なので、初めてきたと言うのも嘘だし、なんなら他のクラスメイトに向けての小芝居の可能性すらある。
姫路さんは学生時代あまり人の前に立って歩く生徒じゃなかったのもあり、結婚後の横暴な態度をクラスメイトの前で見せる気はないようだ。下野はそれを察して合わせているらしい。
一緒にゴブリンに石を投げてレベルアップをしている。
動物に餌をやる感覚で。
そのイチャイチャを見せつけつつ、感化されたクラスメイトが倣って動き出す。
よっしゃー、スキルゲットー! との声があちこちで起こった。
ただ、桂木先生がこんな雑魚相手にフェアじゃないとスルーしていった数分後、入り口に戻ってきた。
そしてクラスメイトに訴えかけるように呼びかける。
「お前ら、このダンジョン見せかけに騙されるな! パーティー必須の超難易度ダンジョンが牙を剥いてくるぞ!」
「なんの話です、先生?」
うむ、と前置きをし。そして先を体験してきた先生の語りに蛮族達が食いついた。その目つきがギラリと変わるのを察した。
ゴブリンゾーンを超えてドラゴンゾーンで全滅したそうだ。
「あー、惜しかった! 後もうちょっとで抜けられたのに」
そう零す田所は、まさかのドラゴンをテイムして使役。
そう言えばこいつ竜騎士だったもんな。
ワイバーンを設置した覚えはないのだが、空を飛ばなくてもテイムできるとか出鱈目すぎるだろう。
「やっぱり手持ちのスキルだけで抜けるのは無理だ。こっちのスキル育ててからの方がいいのかも?」
岡戸が余計なことに気がつく。
桂木先生がそれだ! と言う顔をした。
そして抜けた先で異世界ストリームに連れて行かれ、無言の暴力が俺に襲いかかってきた。
どうやらこのダンジョンのオーナー、もといダンジョンマスターが俺である事実が判明したようだ。
命があるだけいいじゃんか。
他のダンジョンだったら金儲けすらさせてもらえんぜ?