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第82話 ダンジョンマスター

「フハハハハ! 大漁じゃー!」

「そんな大声出したら他のシーカーさんに気づかれちゃうよ、あっくん」


照明の魔道具を持ってる美玲さんに叱られてしまう。

しかし、ここはダンジョン最下層。

正規ルートから外れた石壁の奥。

さらに一本道を抜けた先。

隠し通路だったんだろうが、俺の入れ替えスキルで転移先を追加、そこに転移してしまえば俺の移動先は無限に増える!


高校では大して目立たなかった“アースシェイク”、“メタルソナー”、“妖精コボルド”はダンジョン内で大いに役立った。

こんなことならもう少しジャキンガルでエレメントツリーを伸ばしとけば良かったぜ!


「赤、青、緑の色石が多いね。これもレアメタル?」


拾い上げた石をまじまじ見つめる美玲さん。


「俺のメタルソナーに引っかかった石だ。一見色のついた石ころだけど、ちゃんと鉄の成分も含んでると思う。詳しくは下野に聞いて、余ったら商品に加えればいいかなって。正直下野が使わなくたってこっちの世界では使うかもだし? 物珍しさで売れたらいいな」

「売れなかったら?」

「ここに捨てる」

「あっくん、ダンジョンはゴミ捨て場じゃないんだよ?」


呆れる美玲さんとのやりとりの最中、コボルドが虚空に向かってワンワンと吠えた。なんだぁ?


そこは何もない闇。

最深部の抜け穴よりもさらに奥。

何もない空間に浮き上がる文様。

そして頭の中に響く声は俺にこう告げた。


────────────────────────────

❗️ ダンジョンコアがプレイヤーの手によって破壊されました。

────────────────────────────


おっと、まさかのこれが?

足元に散らばった色石を見つめながらポカンとする。


────────────────────────────

❗️ ダンジョンの権利が???からプレイヤーに移ります。

  引き継ぎますか?

  <YES/NO>

────────────────────────────


立ち止まって色石を眺める俺を不思議に思ったのか、美玲さんが訪ねてくる。


「どうしたの、あっくん?」

「いやー、どうも俺、ダンジョンを攻略したっぽい。この色石、ダンジョンコアらしくてさ。俺にダンジョンマスターを引き継げって言ってくるんだが」

「あっくんはどうしたいの?」

「とりま保留で。引き受けてもいいけど、こっちの世界の人間殺すの嫌じゃん? これを引き受けるってことは学校を襲ってきたモンスターの親玉になるってことじゃんね?」

「それは確かに嫌だね」


そんなわけで採掘を終え、下野に買い取ってもらいに合流。

査定を受けてる間にその話を振ったら、意外にも食いついた。


「じゃあ僕が引き受けるよ。一度やってみたかったんだよね」


とか抜かした。

いや、並行世界の住民つっても、同じ歴史を辿った地球人だぞ?

それを滅ぼしかねない側に好んで回ろうとするのか?


「磯貝くんの懸念はもっともだけどね、これは研究者としての探究心でもあるんだ。入手可能な素材が容易になれば、僕も君もWin-Winさ。それに管理しちゃえば、外の人間を襲わずに済むじゃない?」


そう言う考え方もあるか。


「じゃあ、こいつは渡しとく」

「金を払えって言わないんだ?」

「俺からしたら損な役回りをお前にさせるんだ。金は取れねーよ」

「じゃあ頂きます」


大事そうに、両手で受け取る下野。

しかし現地に持って行って引き継ぎ申請をしたら。


────────────────────────────────

❗️ 新たなダンジョンマスターにアキラ・イソガイが任命されました

────────────────────────────────


何故か俺が任命された。

どうやら色石の受け渡し程度では権利の譲渡はできないようだ。

任命されたと同時に色石が光だし、丸い光り輝く石になると俺の胸元に入り込んでしまう。


「えっ、えっ、何これ?」


心臓に近い部分と融合して、これでは俺を殺さない限りダンジョンコアが壊れることはない。

つまりダンジョンコアとは、ダンジョンマスターの心臓部だったのだ!


え、じゃあ。あの洞穴ってダンジョンマスターの体の中だったってこと? 気色悪っ!


「話が違うじゃないか、磯貝君」

「これについては俺もよくわかってないんだって!」

「でも、ダンジョンと一体化したって事は他の世界に行ってもチケットの影響が出続けちゃうって事じゃない? 不思議なことにダンジョンってどこの世界とも繋がるよね?」

「あ、そうじゃん。あー……俺の不労所得がー……」

「そんな程度の低い話じゃないと思うけどね」


おま、下野! 俺の不労所得のどこが程度の低いって話だよ!


「落ち着きなよ。まあ詳しい話は僕の研究所でしよう。君の体の今後について話しておかないとね。マスターになった今、モンスターからどのように認識されてるかの検証もしないと」

「え、俺攻撃されなくなるの?」

「可能性としての話ってだけだよ。君の聞いたプレイヤーってフレーズも気になる。ダンジョンとプレイヤー。そんな括りを作った別の存在がこの世界に介入してきているのを踏まえての憶測の討論会さ」

「それ、俺に1ミリも旨味がない奴じゃない?」

「気の所為だよ」


下野は何かを含んだ笑みを見せ、転移に身を委ねた。

こいつともそこそこ付き合い長いけど、ほんと底の見えない野郎だよ。

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