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第79話 レベルアップ

異世界からの襲撃があってから丸一日。

俺たちは約束の期日が過ぎても元の世界に帰れず、並行地球で過ごすことを余儀なくされた。


その理由は全世界の地球人の平穏のため。

どうして怪我を負わせにきた外敵が一切攻撃して来なくなったのかを問われたのかと聞かれた時に「俺のスキルでみんなを守った。でも俺が元の世界に戻ればその効力は失効する」とうっかり漏らしたせいで帰れなくなったのだ。


まぁ帰ったところで特に何かやる事もない。

並行地球はネットワークがあるから、こっちでもネットが通じるのだ。

正直なんで繋がるかは普通に謎。

世界が違うのにどうやって繋げてるんだ? もしかして木村がすでにこっちにきてたり?

まさかな。


まぁとーちゃんと電話つながるし、事情も説明したし、仕事もこなしてるので問題ない。でもこっちに向こうのシーカーを寄越すのは少し違うかな?


いくらその世界で何ヶ月過ごそうと、ここはあくまで並行世界。

俺たちが惰眠を貪り、青春を送ったあの地球じゃないんだ。


見捨てられない気持ちはあるが、手助けし過ぎたおかげで雁字搦めになってる現状を考えると、この世界の人たちだけで解決してほしいと切に願う。

俺も慈善事業じゃないんだわ。


そんなこんなで“カウンター転移”を地球人の他に建物にも付与しつつ、なんとかしてやり過ごすかをしていると、ニュースから面白い情報が飛び込んでくる。

それがレベルアップが行われたというものであった。


攻撃してこないのをいい事に、学生達が袋叩きにしたらレベルが上がり、何やらスキルとステータスを獲得したと騒ぐ学生が居たらしい。

ただ、スキル云々は現実で使えないらしく、その時空の門の向こう側……SNSでの情報ではダンジョンになってるに違いないと小説やアニメの見過ぎで思考を拗らせたオタク達が騒いでいた。


実際のところ、俺たちがダンジョンと聞いて感じるのは異世エムベスの殺意100%のものしか知らない。

対処法さえ間違えなければ恩恵はでかいが、倒したところでレベルアップとかしなかった。

持ち帰ったアイテムでエルフ化したことを除けばだが、百害あって一利なし無しが俺たちの見解だ。


「あっくん、どう思う?」


美玲さんが学校中のスマホのバッテリーをフルにしつつ、SNSの投稿内容に疑問符を浮かべる。


「んー、現状維持だわな。なんにしろ、俺たちはどうもできない。もしもあっちとこっちで、次元が変わるのなら俺たちは介入しちゃいけないと思う」

「どうしてだ?」


俺たちの会話に、クラスメイトの田中が割り入ってきた。

ゴリゴリ君スルメ味を奢ってくれた友人である。


「そんなもの、俺が向こうに行った時に地球を守るオートカウンターの能力が失効したらどうするんだよ。俺の能力はあくまでその世界に影響を与えるだけだぞ? 全員が全員同じタイミングで踏み込まないと向こうからこっちに侵略してきた時の被害は誰が抑える?」

「あっ」


今が安全だからと向こうでも平気みたいに囚われているのが田中の様な人間だ。

流石に望んで死地に飛び込んだ先の責任までは持てねーよ。


「ただでさえ人の命を掌握してるのよ? 怪我をしたとか報告あったら何言われるか分かったもんじゃない。ただ、俺のカウンターの範囲は敵意あるモンスターの攻撃のみに絞られる。人類同士の喧嘩はカウントされないのでそのつもりで」

「まぁ、そこまで頼るのは違うもんな」

「そうだよ、お陰で予定を超過して帰れずじまいさ。こうなったら人間の振りしてんのも面倒になってくるな」

「??」


思わず本音が口をついて出る。

田中はそれを聞いて頭の上で疑問符を浮かべた。


「人間の振りってどういう意味だ?」

「どうもこうもない。俺たちの地球は一度滅んで異世界に引っ越ししてるんだ」


説明が面倒なので掻い摘んで話す。

並行世界の地球からの交換留学生。

そして異世界に行ったことのある人間。

そんな噂の俺たち二人組はモンスターを駆除した時の人としてSNS上でも簡単にヒットする。

だが実際は住む場所を追われ、異世界に逃げ込まざるを得なかった負け犬だ。

で、その先で異世界の住民として暮らしてるので、実質異世界暮らしと言っても過言ではない。

ぶっちゃけ異世界には何回も行ったことあるしな。


「そんな事が……」

「知らなかったとはいえ、そっちも大変だったんだなぁ」

「こっちの事情ばかり押し付けて悪かった」

「つーか、このレベルアップが事実なら俺たちもいけるんじゃね?」

「危なくない?」


そんなふうに騒ぐクラスメイト達に、俺はアトランザで商人だったことを明かして武器の流通をしてみた。

勿論貸すだけだ。

もしワンチャンレベルアップが事実なら、ダンジョン側でもやっていけるんじゃないかと思ってな。

後ついでに耳もとってエルフの姿を表したら、なんともいえない顔をされた。


あーそうだよ。エルフって聞くと美男美女しかいないって思うが、元に結構引っ張られるんだよ。悪いか?


「あたしは戻っちゃうと色々誤解されそうだからやめておくね?」


美玲さんは懸命な判断をした。

俺はまあ、異世界通として体を張ってるのでこれでいい。

なんせ世界の命の恩人だぞ?

転移魔法の使い手だという事実はすでに露見され。

ただ、それがいい意味で捉えられてないと言うのも実情だ。


「で、実際に切れ味とかはどうなんだ?」

「俺の世界はステータスで殴るタイプだからなー、武器そのものに威力を求めるのはな」

「まあゲームの様にいかないわな」

「で、やるの? やらないの」

「やる!」


田中は意気揚々に俺の貸し出した『マジックダガー:攻撃力5 +切れ味増加 +防御貫通』を手にし、住民に危害を与えようとしているゴブリンに斬りかかって、無事レベルアップを果たした。


しかしそれを住民に発見され、銃刀法違反でお縄についた。

田中がクラスに戻ってきたのは3日後の朝だった。

その時の田中の顔は酷くやつれていて、マジックダガーは警察に押収されてしまった様だ。

せっかく下野にエンチャントしてもらったのに。まぁ安もんだし、いいか。俺も作ってもらったのに結局使わなかったしな。


レベルアップの内容は、ステータスの増加とスキルの獲得で間違いないらしい。

ただ、魔法スキルとかの類は現実では使えない様だ。

俺は美玲さんと顔を向き合わせる。

察した美玲さんが充填スキルを駆使して田中に肩ポンすると、魔法が使えた。

つまりはそういう事だ。


こっちの地球もマナが枯渇してて魔法が使えない。

俺は学校の敷地内にマナの木を植えた。

成長は遅いが、そのうち学校内なら使える様になるだろ(他人事)


それが原因でどんな悲劇を生むかは知らんけど。

まぁ、頑張れ。

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