やはりあの鉱石自体は非常に希少で、諦めのつかなかった俺たち(主に下野)が姫路さんに複製を頼んで大量生産し、それを加工してとても丈夫で切れ味抜群の包丁やミキサーを作った。
姫路さんの能力はこういう時役に立つんだよ。
まぁ、そのあと下野が地獄を見ることになったが、あの夫婦はより濃厚な(夜の)お付き合いを始めたので良しとする。
しかし俺たちの住んでる家が突然別物になれば誰もが羨むものだ。
一見して土の様な色合い。
しかし鉄や鋼より頑強で、加工もお手軽(下野談)。
これがもしドワーフに知られたら戦争になりかねないと里の長老達が揶揄するが、そもそも外に持ち出さなければいいわけだ。
それにドワーフなら色々イチャモンつけて戦争ふっかけてくるんだから同じでは? そう諭せば長老達も頷く他ない。
ジャキンガル鉱は千年樹にとっても環境汚染に繋がらず、廃棄されるものもなければ非常にクリーンで木々の成長の妨げにもならない。
雨風にも強く、なんなら帯電すらしない貴重な金属として里中で喜ばれている。
そして俺たちが居なくても生活できる様に下水道も作製。
こういう時、転移とアースシャッフルが非常に役に立った。
当時は全く役立たずと思われたコボルドも、毒どころか人体に有害な物質を排除するという意味合いでは非常に役に立っている。
俺に通じなくとも、里の誰かに迷惑をかけちゃいけないからな。
そういうのを里の外や異世界にポイポイしながら下水工事は完成!
生活基盤が根本的に変わったのである。
そもそもクリーンに加工できるのは下野の合成があればこそなんだけどな! そしてマナの上昇に美玲さんも大活躍。
もし他の部族に攻め込まれても、新しく建造したジャキンガル鉱製の建築物は無傷で残るだろう。
なんとこの金属、熱や耐刃性にも優れる。
なので加工できるのは実際下野くらいなのだ。
「なんともはや、お前達が来てから里は様変わりしたな。たった二週間の出来事とは思えん」
カレンさんが俺たちを招き入れたことは早計だったかと言わんばかりに変わり果てた里を見てため息をついていた。
「何言ってるんですか。仕事は減って自由時間は増えましたけど、その分マナの上昇もさせてるんです。お互いWin-Winですよ?」
そう、俺たちが里にもたらしたのは近代文明以外にも子作り作業によるマナ増幅行為そのもの。
すっかり男女間の仲が良くなり、日々熱視線を送り合っている。
目と目が合えば合意のサイン。
あとは木陰でしっぽりと。がエルフ、ならぬエロフの日常となっていた。
エルフの子供は100年に一人産めれば良い。
長寿ゆえに人間と同じ感覚で産んでいたら人口が溢れてすぐに里で暮らせなくなってしまう。
特に外敵の多いこの世界では、その選択肢が取れずにいた。
そんな常識をひっくり返しかねない非現実世界が迷い込んできてしまっている。
まぁ行為をしたからと言って子供ができるわけではないのだが、するからこそ求めてしまうらしい。
養う余裕がないのに、やるせなさで参ってしまうため、極力しない様にしていたのだとか。
それを覆してしまった責任はどう取るつもりなのだ? と問われて下野が取り出したホムンクルスで解決策を図った。
庇護欲がそそられるフォルム。
里の子としてみんなで育てていけばいい(成長は一切しないので人口増加につながらない)と説明したら、まぁそれならと一家に一台置かれた。
下野は上得意様を得てホクホク顔だ。
代わりにジャキンガル鉱をアトランザに持ち帰る権利を得ていた。
「その件が一番信じられぬのだ。貴殿のマナ量が私を超えているなど。うぬぬ、私の6,000年が……」
俺のマナは遂に11万に届いた。そりゃ毎日1,000づつ増やせば10日で10,000増える。それもこれも美玲さんがいるからこそなんだけど、美玲さんの好意でこの郷に滞在してる時は性欲と体力が長続きする様に施してもらっていた。
美玲さんの能力は俺の転移と同じ様に広範囲で影響を与え続ける系の様だ。お陰で夜な夜なイヤーンな声があちこちから届いている。
当てられた俺たちも負けじと行為を繰り返し、マナを増幅させてはお祈りに充てることでエレメントツリーのスキルの数を増やしていた。
エルフの里は引きこもってるのがバカらしくなるくらいの城塞都市と化していた。
近代武器は敢えて作らなかったが、侵入者を排除する仕掛けはたくさん作った。
そこは日本家屋の建造に詳しい“ダンカン”さんと共にあれこれ話し合って作ったので間違いない。
なんでもこの人、宮大工さんだとかで防衛能力に特化したお城をいくつも再現しているすごい人。
ただエルフの里では再現できる資源が無かったとかで非常に困っていたのだ。
金属もなく、切断は主に魔法という概念しか存在しなかったエルフの里で、あんな立派な屋敷を作るぐらいには建築に長けているダンカンさん。
俺と下野はそんな彼がより仕事をしやすくするための道具を取り揃えたり、仕事のサポートをしているうちにすっかり仲良くなっていた。
二週間の滞在はお互いにとってより良い経験になっていた。
俺も魔法を覚えたし、愛想は悪いが憎みきれない妖精コボルドとも仲良くやれたし、思い残すことはない。
下野達はたまにこっちに顔を出す様だ。
俺がいなくても、もう美玲さんが居るだけで移動が可能になってるしな。
俺も別の仕事に精を出すかと重い腰をあげた。
いよいよ異世界エスペルエムの売り出しを開始してもいいだろう。
時間軸がこっちと違うから、ゲーム感覚で売り出せると思うんだよね。当然ステータスもマックスで俺TUEEEし放題。
ただ、当たり前だけど住民は生きてるのでNPC扱いしない様にな。
最初のスポーン地点はエクステバルド王国でいいか。
なんかあの国ずいぶん治安良くなってたし。
俺はとーちゃんに新しい企画書を届けると、それを見たとーちゃんがパソコンをカタカタさせながらエルフの里日本支部に一気に情報を送っていた。
◇ ◆ ◇ ◆
一方その頃、レグゼル王宮では。
突如現れた邪教崇拝者によって国が乗っ取られ、領土拡大の為に戦争を起こしていた。
以前から似た様な理由であの手この手で戦争の火種を振り撒いていたレグゼル王国。とうとう狂ったかと他国により雇われたに日本人シーカーによって攻略が開始されていた。
どんなに侵略を行おうと、封印が解けずに弱体化中の魔王ジャキンガルは、エムベスの魔族を悪質な粘着行為でリスポーンキルして回った日本エルフのシーカーを他の種族と同様に扱った事で絶賛返り討ちに遭っていた。
日本エルフのシーカーは歴戦の戦士である。
修行の場として異世界ストリームを選択するくらい戦に飢えており、上位数%は実際に赴いて生き残った経歴を持つ。
所詮危険度★4の世界でイキっていたジャキンガルに取っては成す術もなく封印されるに至る。
「ミッションクリア。報酬は指定の口座に振り込んでおいてくれ。我々はこれにて帰投する」
日本エルフは日本国にのみ帰属し、他の国の元にはつかない傭兵として異世界クラセリアで多く知られ、その戦力を高く評価されていた。
絶賛鎖国状態なのは、その技術を悪用されない為というのもあるが、単純に生まれついての気質もあった。
そんな彼らにとってシーカー業は遊びの平行線。
日常があってこその遊び。
彼らにとって一番大事なのは息抜きの時間だった。
そこで例の転移会社からあたらしい世界の発表があった。
アトランザに次ぐステータス獲得世界。
危険度は低く、得られるものは何もないと見限る人も多いなか。
アトランザでも苦労した層はこぞってその世界へとなだれ込む。
そしてVRMMOの様な臨場感と共に開始される世界に日常を忘れさせるほどの興奮に満たされていた。
なんと言っても驚くべきは時間の経過の違い。
クラセリア基準の40倍早く回るこの世界では、たった2分トイレ休憩をしてるうちに1時間半行方不明になる曰く付きの世界だった。
しかし休日が少ない層には爆発的に人気に火がついた。
長寿といえどいろんな世界を遊び尽くしたい人はたくさんいる。
そういう点ではエスペルエムは割と人気な世界になった。