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第28話 この木なんの木、魔法の木

「磯貝君、君ってやつは」

「ちょ、岡戸。怒る事ないだろう?」


よく小説なんかでは、不利な戦いを強いられた主人公がチームワークを生かしてゴーレムを翻弄し、術者を倒して目的のものを手に入れる。

いわば王道的展開。それを台無しにした俺に強い怒りを覚える岡戸。


「まあまあ岡戸君。あなたの言い分もわかるけどね、こちらには非戦闘員がいるのよ。磯貝君は私たちに配慮してくれたのよ。そうでしょう?」


城島さんはここで頷いておけとその目が言っている。

もし余計な口を挟めばもうフォローしてやらないぞと言わんばかりだ。


「もちろんだぜ。お前の気持ちもわかるけどさ、俺たちの目的を見失っちゃダメだぜ?」

「そうだな。少し熱くなりすぎた」

「岡っちは一度それで失敗してるもんね。冷静になんなきゃ!」

「うぐ……!」


やめて笹島さん、その言葉は岡戸に効果覿面よ!

某アニメの有名なセリフを取り入れつつ、茶化す。

岡戸は怒ってるようだが、掴みかかってはこなかった。

そのクレーバーさを大切にしていこうな?


「磯貝、直接あの大樹をこっちに持ってこれないか?」

「できますけど、多分ゴーレムもこっちに来ますよ?」

「だよなぁ……」


わかってて聞いたのかよ、この人。


「せめて相手の弱点がわかればな」

「古来からゴーレムのコアは頭の部分にあるコアストーンよ?」

「それを壊す必要があると?」

「ええ」


地上600メートルはあるだろう巨人を少し離れた丘の上から見据え、無理だろうなと結論を出す。

迂闊に近づいたら踏み潰されそうだ。

ぶっちゃけ山が歩いてるぐらいの認識でいい。


そんなサイズのゴーレムを三体、使役してるなんて本当なら俺たちが敵わない相手だったんだろう。


「先生、コアをアイテムバッグに直接取り込むことは?」

「直接触れてみないことにはわからんな。誰かの契約が施されてれば俺のバッグには入らんからな」

「持ち主が死んでも?」

「契約が何年単位でしてあるかによるな」

「面倒くさいですね。吉田さんがその契約を解呪できたらいいのに」

「それだ!」

「え、私?」


なんとなしに当てずっぽうで言ったコメントを食い気味に先生が拾った。

解呪とは魔法から呪い、さらには筋肉痛までなんでもほぐすことができるスキルだ。

前二つはわかるけど、最後のやつについては永遠の謎である。

お父さんが整体師だからって普通そうはならんだろ。


と、言うことで俺と吉田さん、桂木先生の三人でゴーレムの頭に『入れ替え』でジャンプ。

足元では氷結魔法で足止めしてくれてるが、ゴーレムの脚力を止めるには岡戸の熟練度が低すぎた。

伊藤や田所、麻生は言うに及ばずである。前に出たら踏み潰されて死ぬので、後方待機。

それでも岡戸は笹島さんの『充填』でMPを復活させては頑張ってくれている。

なお、城島さんはどの部位を攻めれば効率的に足止めできるかを鑑定しては教える立場だ。

俺たちもさっさと攻略してしまおう。

そう長くは足止めできそうもないのは見てたらわかる。


「先生、解呪出来ました!」

「でかした! じゃあこのコアストーンは誰のものでもないな。発見者として俺が預かっておこう。磯貝、残りも奪い尽くすぞ!」

「へーい」


言い分がまんま盗賊のそれである。

あんた教師やめちまえよ。

絶対教師に向いてないって。


抜き取られるコアストーン。

膝から崩れ落ちるゴーレム。

俺たちは『入れ替え』で次のゴーレムに飛び、合計三体のゴーレムを沈黙させることに成功させていた。


「はっはっは! 大漁、大漁!」


笑いが止まらないとばかりに桂木先生が高笑いする。

正直勝ちの目が薄い戦闘を無傷で乗り越えられたのだ。

今回ばかりは許してあげても良いか。


でも一個だけな?

二個は姫路さんの熟練度上げに使われるから。

どうせ量産できるようになったら頼るんだから今のうちに先行投資しとこうぜ?


「ごめんなさい、先生。私の熟練度上げに使っちゃって」

「なんのなんの。一個あるだけでも大儲けさ。姫路は後で貢献してくれればいいよ」

「金貨の偽造は犯罪ですけどね?」

「先生の癖に生徒に対してやることが狡いんですよ」

「うるさいうるさい! 異世界ではそんな甘いルールは通用しないんだぞ! 頭のいい奴だけが生き残るんだ!」


ダメな大人の典型だ。

いっそ反面教師として見習えと言うことだろうか?

人間性以外は普通に尊敬できるんだけど、性格がなぁ……

やっぱスキルを得てからの経験が先生を大胆にしたんだろうな。


そして俺たちは脅威を取り払い、瓦礫の山となった村へと辿り着く。

ゴーレムのジャンプ攻撃に晒されること十数回。

生活感のまるでない更地がそこにある。

まるで石臼で挽いたみたいに粉々だ。


生き埋めか、はたまた圧死か。

死因はわからないが岡戸でも魔力を追えないくらい弱々しいとのこと。


千年樹の実は全部で50個あった。

多分だけど、これって乱獲していいもんじゃない気がする。

時すでに遅いが。


「千年樹の実、これを齧ると若返りの効果が得られるらしいわ。不老長寿の薬の原料にもなってるわね。マナリーフの上位互換で、草花ではなく、植えるとすぐさま苗木になるらしいわね。マナリーフの1000倍のマナを貯められるらしいわ」

「インフレがすげーな」

「それだけの価値があるのよ。あんな大袈裟な戦力が投入されてるんだもの。これぐらいのお宝は用意されてないとね」

「確かにな」


でも地球に持っていったところで役に立つのか、これ?

校長先生は政府にせっつかれている。

政府が欲しがってるのは新しいエネルギー源だろう。

電気、ガス、水道。

それに代わるクリーンなエネルギー。

そんな都合のいいもんが転がってるとは思わないが?


「磯貝君は何か勘違いしてるようだから言うわね、これ。この世界で魔法が使える大元の存在よ?」

「つまり?」

「持って帰れば地球でも魔法が使えることになるわね」

「大成果じゃん!」

「ただし、そんなすぐにポンポン使えると思わないことね。このサイズの大樹になるまで根気よく育てる必要があるのよ」

「へー、果報は寝て待てみたいな?」

「それでも地球で魔法を使いたがってる層には喜ばれるでしょうね」

「じゃあ全部校長に献上しちゃうか?」

「待て、磯貝。姫路さんに種を作ってもらうのが先だ」


ここで先生の待ったが入る。

そういえばここに来た目的はそれだったな。

千年樹の実の能力を知った以上、全部献上する未来を回避するには種で入手しておきたいところだろう。


「ちなみにこの種って育てれば木になって実も生るの?」

「それこそ千年規模で待ちぼうけでしょうけど」

「気の長い話だな」

「姫路、実の方は複製可能か?」

「無理です」

「そうか……」


こうして悪徳教師の野望は潰え、俺たちは学校に提出用の千年樹の果実を進呈した。


全てのダンジョンにあるわけではないと念押ししたが、それを受け取った政府がどんな要求をしてくるかわかったもんじゃないのが玉に瑕だな。


ちなみに一個くすねて人数分で割って食べたのは墓場まで持っていく共有の秘密である。



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