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第26話 桂木先生はアイテムバッグをこう使う

「ダンジョン内って、真っ暗なんだな。もっとこう、ゲーム的なの想像してたんだが?」


桂木先生がそれっぽいことを聞いてくる。


「いや、昨日言ったじゃないですか。ハックアンドスラッシュは期待できないって」

「ちぇー。金貨の分の補填ができると思ったのにさ」

「それにとても暗いのね……」


転んでもただじゃ起きないあたり木村ととてもよく似てる。

もしかして親戚だったり?

いや、親族だからって似るわけじゃないか。

先生はともかく、姫路さんは心細そう。

いくら普段地味だからって暗闇が得意というわけでもない。


「大丈夫だ。こっちにも策があるからな。な、麻生?」

「またあれをやるのか?」

「カンテラが一つ二つ増えたところでこうも見通しが悪いんじゃやるしかないだろ?」

「そりゃまあそうだが。前衛は伊藤、田所が受け持つ。中衛は岡戸、俺、麻生だ」

「あとあたしもね!」


姫路さんの説明にそれぞれの得意分野を説明する。

笹島さんがどこからか取り出した魔法銃を構えて打つ動作をしてみせた。もちろん魔石はセットされてないので弾は出ない。


「磯貝はともかく笹島もか?」

「笹島さんはMPの回復が可能なのよ。だから本来なら燃費最悪の魔法銃でも戦闘に役立つの」

「磯貝は?」

「罠をわざと発動させて、モンスターとチェンジする!」

「自爆特攻じゃねーか!」


うるせー、それが俺の持ち味なんだよ!

戦闘に参加しない奴は黙ってろ。

と、そこまで言った時桂木先生が突然ほくそ笑む。

なんだよ?


「お前、俺が戦えないと思ってるな?」

「いや、アイテムバッグでどうやって戦うんすか?」

「チッチッチ、わかってないな。いいか? バッグの中にはサイズを問わずになんでも入るんだ。なんなら魔法生物だって入るぞ?」

「は?」


意味がわからず呆けると、これ見よがしに得意げになる。


「まぁみていろ。こう見えて異世界で商人なんてやってるんだ。野盗ともやり合ってきたさ。対人戦も少しは期待してくれてもいいんだぜ?」

「超意外。岡戸とか知ってた?」

「いや……」

「謎の特技ですね、桂木先生。現代文の教師が対人戦?」


城島さんでさえその意外な特技に呆れていた。

フォーメーションが決まり、俺たちは前衛と中衛、光栄を決めた。


前衛:伊藤『剣聖』

   田所『竜騎士』

   桂木『アイテムバッグ』


中衛:磯貝『転移』

   麻生『火炎騎士』

   笹島『充填』


後衛:岡戸『全属性魔法適正』

   城島『鑑定』

   吉田『解呪』

   姫路『複製』


なんでだよ。

え、なんで先生前衛にいるの?

丸腰だぞ? 

ネクタイを拳に巻いて、なんかのアニメキャラみたいにポーズをとる。

俺の拳は凶器だってか? 

うるせーよ。


「取り敢えず怪我はしない方向で」

「ポーションならいくらか取り揃えてるぞ?」

「え、なんでそんなの持ってるんすか?」

「おいおい、俺が異世界で商人やってるのを忘れたか? 金を稼ぐだけが商人じゃねーぞ? 品を揃えてなんぼだろうがよ」


そう言えばそうだ。なんだかんだで頼りになるじゃん。

見直したぜ。


「ちなみに一つ当たり銀貨2枚だ」

「金を取んのかよ!」

「何言ってるんだ、商売道具だぞ? タダで渡したんじゃ商売あがったりだ。ただでさえこっちは損失が大きいんだからな」


さっきの白金貨の件をいつまでも引きずりやがって。

元を正せば生徒に悪の道を教えるあんたが悪いんだぜ?


と、暗闇の向こうから早速人影が現れる。

ホブゴブリンである。

ゴブリンゾーンは抜けたので、この前の続きからならそうなるよなあという手合いだった。


「攻撃は俺が防ぎます! ここだ、デカブツ。タウント!」


伊藤が盾を構え、敵意を盾に集めて身構える。


「おっしゃ、遅れんなよ先生!」


田所が槍を構えて躍り出た。

回転を加えた突きが初撃を弾かれて体制を崩したホブゴブリンの脇腹に突き刺さった。

筋肉質なホブゴブリンとは言え、伸ばし切った筋肉の付け根は人間同様弱点である。


俺と麻生は足場にエンチャントを加えながら洞穴の光源を広げる係だ。

照明が隠れてるホブゴブリンを映し出し、射線が通れば笹島さんの出番。

SPFが得意な笹島さんの銃から魔法のバレットが綺麗にホブゴブリンの頭部を撃ち抜く。


ナイスショット!


だが数で攻めてくるのはゴブリン同様。

しかしその体格の大きさがこの狭い洞穴では不利となる。

振りかぶった棍棒が天井に当たり、拳だけが振り抜かれて棍棒が後からやってくる。

ミスとは言え回転を加えた棍棒の一撃は地面を易々と抉る威力を誇った。

それをみてビビる俺たち。

だがそれが相手に伝わって仕舞えば、同じ手を使ってくることは目に見えていた。


隊列が崩れる。

ホブゴブリンが雪崩れ込んできた。

そこで満を辞して桂木先生が躍り出る。


丸腰から繰り出される拳は、ホブゴブリンの筋肉の壁に阻まれた。

が、


「グギャッ!?」


無傷と思われたホブゴブリンが崩れ落ちる。

桂木先生が片手を払った。

ビチャビチャと血痕が足元を染める。

そこへホブゴブリンのものと思われる心臓が転がっていた。


「多少デカくても心臓の位置は人間と変わらんな。なら、モノの数ではないさ」


強者アピール乙。

桂木先生の意外な活躍に、防戦一方の俺たちは嫉妬に似た感情を灯していた。


このままじゃ終わらせない。そんな炎が燃え上がる。

男って馬鹿だよなと思う。

でも、この負けん気の強さは大事にしていきたいところだ。


特に女子の前ではな!

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