翌日、四時限目の授業を終えた俺たちは再び集められることになる。
ちなみに今回は桂木先生に姫路さんまでくっついてきた。
なお、姫路さんは理由を知らないらしく、先生と城島さんから任命されたらしい。
「よろしくね姫りん」
「姫ちゃんよろしくー」
「ちょ、変なあだ名で呼ばないで!」
女子達が独特なあだ名で呼ぶも、本人はやぶさかではないようだ。
普段誰とも付き合わずに暮らしてきた彼女は壁の花と揶揄されてきた。
俺も同じ教室で同じ空気を吸ってるのにまるで話題にされないので同類だ。
スキルを得てから強欲な奴らに付け狙われる日々。
彼女の『複製』なんかはまさにうってつけだ。
ただ、本人の熟練度が低いのと、そこまでスキルを育てようとする意思がないので他者が思っている以上に複製が機能してない。
もしも俺が『転移』に興味を示さなかったら?
多分同じ道を歩んでたと思うんだよね。
そういう意味では彼女は俺じ境遇か。
「姫路さん、無理しなくていいからね?」
「ありがとう、磯貝君。なんか急に頼られて変な気分だわ」
「俺もだよ。みんながみんな異世界に興味津々で嫌になるよ。毎日連れてけって、こっちは制限が課せられてるっつーのにさ」
「大変ね。磯貝君もあまり無理しないで?」
「うん、ありがと」
こうやって話すのは初めてだが、境遇が似てるからが意外と会話が弾んだ。
なんだよ、異世界転移も悪いことばかりじゃないな。
「ちょっと磯っちー、あたしもいるんだけど〜?」
なんだか笹島さんが不機嫌だ。
俺は心の癒したる笹島さんを構うのに集中する為、姫路さんへ一時の別れを告げる。つっても同じパーティで行動するんだけどね。
「それで姫路、昨日渡したカンテラの複製はどんな感じだ?」
「ノルマは一つと聞いてなんとか今朝までに85%で完成させましたけど」
「100%はまだ無理か?」
「無茶言わないでください。いきなり渡されてやれってどんな無茶振りですか?」
スキルをもらったからってすぐに十全に扱えるわけではないといういい見本だ。
しかし強欲な者は己の能力把握能力を他人に押し付けることで有名で……
「そうなのか? 俺は手に入れた瞬間に理解したぞ? 城島はどうだ?」
「私も同じく。こんな便利なものが世の中にあるのねってその日は徹夜をして完璧に扱えるようにしておいたわ」
「嘘、私の読解力低すぎ!?」
だなんて問答を繰り広げていた。
そりゃ欲しかったスキルが手に入った人達はそれでいいさ。
中には俺たちみたいにスキルそのものを押し付けられた側のことを考えてほしいっつーね?
そんなわけで異世界。
もはや縦揺れも慣れたもので、当初のような驚きも懐かしい。
つーか授業項目に異世界活動入れてんのもうちの学校くらいだろ。
スキルを手に入れたら生徒達が使いたくもなるだろうだなんてもっともな理由を提げて居るが、教師達も興味津々なのは桂木先生が日本でも同じようにそのスキルを見せびらかした結果だ。
そりゃ時間停止の効果のあるアイテムバッグとか誰でも欲しい。
この夏季にアイスを買って家に持ち帰るまで溶けてるなんてザラな話で、なんなら放っておけばモノが腐るまで付随する。
だが先生は当直日に冷蔵庫でキンキンに冷やした缶ビールを同僚の前でうまそうに飲んだり、異世界で仕入れたその世界特有の丸焼きを食べたりしてるわけだ。
味付けは独特だが、コンビニ弁当食ってる横でそんなもの食われてみろ。
同席した先生も目を変えるってな。
そんな強欲商人である桂木先生を連れての軍行、何も起きないはずもなく──
「なぁ城島。近くにマナリーフはあったりするのか?」
「いや、そう簡単に見つかったりは……」
開口一番これである。
俺でさえ引き止めたのを言って見せる桂木先生。
あの城島さんが困惑するレベルなのかよ。
これだから大人は……
ちなみに、姫路さんが初めて100%成功をしたアイテムの名は──
冒険者のシルバーライセンスだった。
これ、複製していいもんなの?
校長先生からどうにかして全校生徒分仕入れてこいと無茶ぶりされてと言われてるが、これが桂木先生の大いなる野望の第一歩だと知るのはこのあとすぐだった。
「じゃあ姫路、次はこれを複製して貰えるか?」
それはどうみても金貨で。
「流石にそれはアウトでしょう。城島さんも止めなきゃ」
「えっ、えっ? なんなのこれ?」
レグザル王国とは彫られた人物の顔こそ違うが、間違いようがない。
その白金色の輝きは金貨の一つ上の白金貨である。
金貨100枚相当で日本円に換算すると数千万〜数億に至ると言われている代物だ。
「俺たちも偶然似たようなの持ってるんだよね。先生、生徒に悪の片棒担がせようってのは見逃せねーな」
「俺は姫路に熟練度を稼いでもらおうと思ってだな……」
「よし、姫路さん。それ全部失敗していいやつだぞ。どんと行け」
「そうなんだ。じゃあ思い切ってやっちゃうね?」
「あー!! 俺の金貨が!!」
何やら後ろで騒いでいるが、自分から熟練度稼ぎに貢献すると言い出したんだ。
当然、ダメで元々なんだろう?
「あははー、失敗失敗」
「あるある。材料はまだまだいっぱいあるから遠慮しないで使ってよ」
「うん!」
下心を一切隠そうとせずに生徒を騙そうとした罰だ。
桂木先生には悪いけど、この金貨は消耗品として消えてもらうことにした。
目の前で失敗するたびに粉々に散っていく金貨。
残りが少なくなるたびに泣きじゃくる大人の姿を見るのは忍びないが、悪に加担させようとしたダメな大人である。
この人は一回懲らしめたほうがいいんだ。
そんな気持ちで最後の一枚までストレートで失敗してもらった。
合計100枚もの尊い犠牲によって姫路さんの熟練度も上昇し、解析度も90%まで上がっていた。
今同じ金属から金貨を作れば90%複製できると自慢げだ。
なお、90%しか似せれないので見る人が見ればバレるのは仕方のないことだと思う。
「ありがとうございます、先生! 先生のおかげで金属理解度が90%まで上昇しました」
「あはは、それは良かった。姫路の今後に期待させてもらうよ」
「はい!」
精一杯虚勢を張ってるが、膝が震えてるぜ先生。ハンカチ貸してやるから涙拭けよ。