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第23話 いざ、ダンジョンへ!

ダンジョンに入る前に、受付で注意事項を促される。

先遣隊の入手した情報では、光源の類はなく、トラップだらけ。

モンスターは近隣のモンスターより手強いらしい。

ちなみに魔石を用いたカンテラが貸し出しされていたので借りることにした。


レグザル王国では銀貨までは一般貨幣で金貨以上となると貴族の専用通貨の暗黙のルールがある。

で、魔石を用いた魔道具はだいたい金貨での貸し出しになる。

国の貴族がバックについているのが良くわかると言うものだ。


「これ、後で姫路さんに複製してもらおうぜ」

「だったら霊草マナリーフを複製してもらった方がいいんじゃない? 多分あれ魔石1万個分くらいの容量あるわよ?」

「いや、そんな大層なもの持って行ってプレッシャーかけてどうすんだよ。姫路さんただでさえプレッシャーに弱いんだぞ? まずはこれくらいのなくしても大した損害のないやつで数をこなしてもらってさ……」

「分かってないわね、磯貝君。絶対に失敗できない! その環境下でようやく普段は出せない集中力が出るのよ。姫路さんにはそう言う試練が必要なのよ」


分かったようなこと言うじゃん。

この子前から思ってたけど割と俺らに辛辣っつーか、自分のスペックならこうするのにって内容を俺らにもやれって押し付けてくるとこあるんだよな。


後ろで伊藤達が「いや、金貨も大金だから」とボソボソ言ってるのは気にしない。

実のところ金貨の二段階上の貨幣が手元に入った俺たちは一気に大金持ちになっている。

それもこれも城島さんのアイディアあってのものだ。


多分伊藤達がこの先スキルで無双したってこの額を再度拝むのは一生かかっても怪しいんだろうなと感じつつ、手を叩いて作戦会議を始める。


「で、この薄暗い中を進むわけだけど、誰か敵の気配感知系の能力持ってる人!」

「「「「「「…………」」」」」」


俺の質問に、全員がそっぽを向いた。

はい、解散。

このチームはこれまでです。


なんだ、この偵察にまるで向いてないチームは。

サーチアンドデストロイするしかないとか脳筋かよ。


「城島さん、暗闇でも鑑定でなんとかならない?」

「無理言わないでよ。私の鑑定は目視の賜物よ。見えない場所じゃどうしようもないわ」

「つまり、見えればいいわけだ?」

「そりゃ見えれば……」


アイディアを閃いた俺は、麻生を手招きして、地面に炎をエンチャントしてくれと言う。

渋々と従う麻生だが、当然ダンジョン内でも火気厳禁は暗黙のルールである。

だがそれは火を焚く場合。

エンチャントで赤熱させる分には煙は出ず、そのちょっと光った場所を目視で見てもらおうと言う算段である。


まぁ、俺の『入れ替え』ならね?

足元にエンチャントしまくる麻生と、その地面と奥の方の天井を取り替えていけば自ずと道は開け……


「ギャッ」

「ギャウッ!!」

「ギギャッ!」


なんか居るぅ。

どうも俺たちの侵入に感付いて暗闇で息を潜めていたモンスターが、炎がエンチャントされた石壁に触れて勝手にダメージを受けていた。

うーん棚からぼたもち、ですかねぇ。


「岡戸、出番」

「見えないぞ?」

「今見えるようにするから。麻生、エンチャント継続で」

「MP切れだ」

「笹島さーん!」

「はいはいっと」


笹島さんが軽く肩ポンすると、すぐに復帰する麻生。

よかったじゃん、エンチャントの熟練度増えるぞ?

普段使う機会がないのか、単純に魔石が高すぎて利用を先延ばしにしてるのか、はたまた初期MPが少なすぎて利用を躊躇ってるのか。

今まで使ってこなかったのは確かなようである。


「ラスト一ヶ所!」

「おっしゃあ!」

「お疲れ様ー」

「こんなにエンチャント行使したの初めてなんだけど?」

「それを言ったら俺だってほぼワンコそばの要領で地面と壁、天井を入れ替えまくったが?」

「磯貝もお疲れさん」

「おうよ」

「筋肉痛の人は手をあげてね。マッサージぐらいはするよ?」

「はーい」

「はい」

「はいはいはーい」


こういう時、男子というのは悲しい生き物である。

吉田さんは落ち着きのある女子生徒だが、出るとこが出ている非常にグラマラスな体型。

特に働きもしてない伊藤や田所が俺に混ざって我先にマッサージされようと挙手をした。

麻生はもうそんな気力もないくらいぐったりだ。


結局マッサージ1号は麻生が受けることになった。

挙手できるくらい元気なら後でもいいだろうと言われた。

至極当然である。


「磯っち、マッサージくらいならあたしがするぜー?」


そんな可哀想な俺に笹島さんが優しい言葉をかけてくれる。


「マジ?」

「吉田さんみたいに本格的なのは無理だけど」


本格的?

意味がわからず、さっきから静かな麻生を見ると、そこにはあり得ぬ方向に足を曲げて降参する様に近くの地面を叩く麻生の姿があった。


「いだだだだ……吉田さん、足の関節はそっちにまがら……いぎゃぁあ!」


今ギョリッって音鳴ったぞ!?

え、なに。一体なにが起こってるの?


「吉田さんのお父さん、整体師やってるんだ。あの子も子供の頃からその教育を受けてるんだって」

「へぇ」


俺は吉田さんから後退りながら笹島さんに肩を揉んでもらった。

あんまり力は強くないし、なんだったら全然効いてる気がしないけど、それを言うほど野暮じゃない。


「あだぁあ! ってあれ? さっきまでの疲れが何処かに行ったぞ? すごい! まるで体に羽が生えたみたいに軽いぞ! お前らも受けてみろよ!」


麻生が次なる生贄を探しに伊藤と田所を捕まえに行った。

確かに先ほどと比べて見違えるように俊敏に見える。

騎士というだけあって全身鎧を着込んでいるのに、アスリートばりの瞬発力で追い詰めていた。

さっきそれをやれよというのは野暮だろうか?


そして捕まった伊藤が吉田さんの洗礼を受けている。

柔肌を直に受けてるのに、その表情は嬉しさよりも痛みに支配されていた。

俺は笹島さんに肩揉みしてもらいながら「バカな奴らだぜ」と一人ごちるのだった。

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