ストーンからブロンズランクになった俺たちは、手っ取り早く討伐依頼を受けることにした。
近隣のモンスターは動き回るフォレストウルフとジャイアントスパイダーなる巨大蜘蛛。
初討伐用の相手として強敵すぎない?
そう述べる俺に伊藤は「ここはゲームじゃないからな」とバッサリ切り捨てられる。
フォレストウルフの討伐部位は牙。
蜘蛛は目だそうだ。気持ち悪っ。
「ここでは再び笹島さんに期待だね。はいこれ」
「なにこれ?」
「魔導ガン。魔石に込められた魔力を使って魔法の玉を出す鉄砲だな。本当だったらバカスカ魔石を食う燃費が非常に悪い銃で有名だが……」
「あたしだったら実際無制限と」
「そう言うこと」
「俺は?」
「荷物持ちだ」
くそっ! こっちにきてからまるで役に立ってないぞ?
まぁ知ってたけどな。
しかし実際は大活躍する事となる。
なんせフォレストウルフは数が多く、とても素早い。
如何に笹島さんがガンアクションゲームが得意であろうと、向こうはこちらの思うように動いてくれない。
そこで俺がウルフの位置を取り替えて頭をゴッチンコさせたりして場を撹乱。
そこへ魔法ガンが炸裂して動きを止めたウルフに伊藤の剣技が炸裂する。
剣聖の剣技は威力こそ高いが、溜め時間がある溜め連戦には向かないといい事なし。隙が多いので防御系魔法を持っており、そっちにMPを使用するので剣士としての運用はあまり期待しない方が良さそうだ。
そしていまだに相棒を見つけてない竜騎士の田所はただの槍使いとして蜘蛛のドテッ腹を貫通して周囲に毒を撒き散らしていた。
二次被害待ったなしである。
しかしあらゆる状態異常を『解呪』、もとい解除する吉田さんの活躍で事なきを得る。
最後に火炎騎士の麻生は切りつけた場所に炎属性の追撃、攻撃を受けた際のカウンター技としてMP消費で炎の追加ダメージを得意とする。
ちなみに森の中は火気厳禁なので通常攻撃で頑張ってもらっている。
岡戸は氷の槍を使ったり、水の球をウルフの頭に張り付けてエグい討伐を果たしていた。
虫系の蜘蛛には通じなかったので氷漬けにしてサポート。
もうこいつ一人だけでいいんじゃないかな? と言う活躍を見せている。
笹島さんは早速MP切れを起こした岡戸に魔力補填を行い、暇を持て余していた城島さんはどの部位がお金になるのか把握して持っていくアイテムを選別していた。
「つーか、全部持ってけば良くね? そのための俺じゃんよ」
「そういえばそうだったわね。じゃあ道中で色々気になる採取物あったのだけど、それも手伝ってもらえる?」
「オッケー」
城島さんの気になる場所にある採取物とは、地上500メートル上にあるだろう崖の上に咲く花だった。
うん、まぁまた面倒くさそうなものを。
まぁ俺の『入れ替え』ならその花の咲いてる場所周辺と、足場をチェンジしてやればいいだけなんだけどな。
「これでいい?」
「ありがとう。あと吉田さん」
「私の出番?」
「ええ、引き抜く際に毒を受けると思うから、それの解除をお願いしたいの」
「了解!」
「あとはそうね、笹島さん」
「あたし?」
「ええ。この花はマナを貯めておく効果がある貴重な花なの。でも引き抜くと急激にマナが減っていくの。だからお願い」
「つまりマナ充填係ってわけね」
「ええ、多分だけどこれひとつで貢献度は右肩上がりよ。私達の協力がなきゃ、まず維持して持って行けないものと思っていいわ」
確かにとんでもない絶壁の崖の上に咲き、持ち帰るのもそれなりの装備を要求される。でもぶっちゃけ、土地ごと持って行けば良くね?
だがいいムードになってるところに水を差す必要はない。
みんなのスキルが大活躍した、それでいいじゃないか。
「これは霊草マナリーフ!? 何処でこれを!?」
受付で納品チェックしていた髭面のおじさんが目玉が飛び出るくらいに驚いていた。
なんでもこの人、薬草類にはうるさい事で有名な人物らしく、管理状態の良さに二重の意味でも驚いていた。
城島さんはこのメンバーあってのものだ。
場所は教えるが、次も手に入るとは考えない方がいいと釘を刺していた。
まぁ十数年に一度しか花が開くことがない珍しい花らしいからな。
俺らも別にこの世界に長居するつもりないし。
「これを持って帰れる技術を持つ奴らをブロンズのままにしておくのはギルドの損失だな。坊主達はシルバー希望だったか? ワシの権限で特別に許可してやろう!」
なんとこの薬草おじさん、現役を引退したギルドのお偉いさんで、元ギルドマスターだったと言うのだから驚きだ。
伊藤達も知らなかったらしく、城島さんの慧眼に舌を巻く。
一体この子は何処まで先を見据えているのやら。
なに? 鑑定って突き詰めると千里眼みたいに未来まで見通せるものなの?
城島さんの株が右肩上がりで限界知らずになっている。
末恐ろしいったらありゃしない。
「逆にこの討伐部位の方が歯牙にもかけられなかったんだけど?」
「そりゃ10円のお菓子と高級料理が目の前に並べられたら、みんな高級料理にしか目がいかなくなるだろ?」
「だからって粗末なゴミを扱うみたいにしなくたっていいじゃないか。せっかく笹島さんも頑張ってくれたのにさ」
「いいよ、磯っち。それを言ったら男子の活躍の意味がまるでないことになるし」
「「「「ぐっ……」」」」
俺以外の男子四人が同時に唸る。
普通ならその討伐数を驚かれる展開だが、ブロンズに混ざってスチールがいるのだ。これぐらいできて当たり前に取られてさえいる。
「そんな事よりようやく本題に入れるな!」
「俺たちの一ヶ月が……」
伊藤、田所、麻生にとっての冒険が一瞬で抜き去られた事実。
確かに等級的な意味合いでは追い抜いたかもしれないけど、中身の濃い生活送ってきてんだろ?
こっちは一瞬すぎて中身なんもないっつーの。
しょぼくれるイケメン三人衆の肩を叩き、俺たちはいよいよダンジョンへと突入した。
さて、校長先生の為にも多少は成果を持ち帰らないとな。