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第21話 異世界冒険者

「実は来週からの授業、例のダンジョンの検証をしていきたいと思う」

「政府から突かれてるんですか?」

「わかるかね? 未知の情報の塊。ブラックボックスの独占だなんだと国民の命を軽んじて懐に入ってくる金銭のことしか考えてない上層部に対して思うところはあるが、私も中間管理職。理解してくれると助かるよ」

「わかりました。いきなり今日の今日で突撃とかは無理ですけど、クラスのみんなと相談してから転移できそうな場所を見繕ってきます。広大な安全圏があれば良いんですけど」

「期待してるよ」


突然校長からの呼び出しに萎縮しつつも校長先生直々のお願いに、俺は了承しましたと頭を下げる。

別にいじわるする必要もないし、転移は一回きりだ。

ただダンジョンの敷地内に校舎を転移させるには、一度中に突入する必要があった。


「先遣隊は麻生、伊藤、田所、岡戸、城島さん、吉田さん、笹島さんを連れて行く」

「俺は?」


メンバー発表に一人不満を募らせる木村。

ダンジョンアタックにTotuberを連れて行けるかよ。

怪我じゃ済まない時もあるんだぞ?


男達は主に戦力。

女性陣はメンタルサポート兼トラップ発見や呪いの類の解除などである。俺は転移の行き先を複数用意するための隊長だ。

今や転移どころか場所を『入れ替え』出来る能力に変化しつつある。

当然入れ替え先は入れ替えるたびに増えていくので熟練度上げも兼ねていた。

なお、入れ替えに待ち時間は存在せず。距離も転移と同様に無制限である。

流石転移レベル30の能力だぜ。使い勝手が抜群にいい。


「危険がつきまとう場所に連れて行けるかよ」

「なんで美玲ちゃんはいいのさ!」

「実はこれ、最近発覚した事なんだけど彼女の『充填』スキル、失った魔力すら回復可能なんだ。MP持ちには最強のバッテリーなんだよ。まぁMPのない地球ではスマホの充電ぐらいにしか使われてないから」

「このスキルにこんな秘密があったなんてねー。悪いね木村っち!」

「くっそー、安全が確認されたら絶対連れてけよ!?」

「二度目は授業だ。残念だったな!」


掴みかからんばかりに詰め寄る木村を払い除け、俺はレグゼル王国近辺へと転移する。

なお、ごみ収集場は既に撤去した。


夏場のゴミの異臭はどこも迷惑だったし、何故か燃やしてないのにゴミが減っていたことを感謝されたのは記憶に新しい。

果たしてあのゴミはどこに行ったのか?


わからないが感謝されていい気になっている俺がいる。

そして件のダンジョンを探すが、見つからないでいた。


「ダンジョンは……あ、あそこか。あれ、なんか関所ができてない?」

「あの紋章は冒険者ギルドのものだな。俺が話をつけてくるよ」

「いよ、スチール級冒険者!」


下から『ストーン青銅ブロンズアイアンスチールとくるので、アルファベット順で言えばFから数えてCランクってところだ。冒険者になって日が浅く、それでもランクを上げ続けてる腕前に賞賛を送る俺たち。

話をつけてきた伊藤は難しい顔をしていた。


「どうだった?」

シルバー級(Bランク)冒険者をパーティに組み入れるのが絶対条件だなんて言われたぞ。どうする、誰か雇うか?」

「俺たちはあんまりこっちに知り合い多くないんだが、伊藤達は知り合いいたりするのか?」


シルバースチールの一つ上。

頑張れば伊藤たちにもなれるが査定での貢献が絶対条件なので早々になれるものではないと言われていた。


要は持ち込むにも荷物の制限があるのだ。

こういう時、荷物持ちに桂木先生がいてくれたらいいのに、肝心な時に居ないので駄目な先生である。

もうあの人異世界に生活基盤築いちゃってるから、本当に異世界人生の合間に教師やってるからね。


「磯貝が居るんなら、ワンチャンみんなで冒険者になった方が早いと思うぞ? 俺から紹介すれば可能だ。どうする?」

「危険な仕事はできないが?」

「荷物持ちだって立派な仕事だぜ?」

「非力な俺に荷物を持たせるつもりかよ!」

「いや、『入れ替え』があるだろ? 確か無制限で使えるって話だ。俺らはそれを聞いてなんて羨ましい能力なんだと絶賛してたんだぞ?」


む、確かにそれなら。


「でも取り替えるったって何処に?」

「目の前にあるだろ?」


冒険者ダンジョン前出張所に俺たちは乗り込み、晴れて冒険者としての生活が幕を開けた。


「なんか脆そうなプレートだね?」

「石で出来てるからな」

「等級によって、プレートの素材も変わるんだ?」

「人々が加工してきた順番だな。石器時代があり、銅、鉄、鋼と道具に変えてきた。城の連中は魔法でなんでもやっちまうが、それ以外はそうでもないんだよ」

「へぇ〜博識だな」

「これは先輩冒険者の受け売りなんだけどな? 覚えておいて損はないぞ」

「それでも蘊蓄を語るなら、等級は上げておいた方が箔はつく。これ豆な?」

「伊藤っちはそれで彼女をゲットしたと?」

「ちょ、笹島さーん」


最後まで締まらない伊藤の会話を中心に、俺たちはストーン級でも出来るクエストを見繕った。

序盤から戦闘はさせてもらえないらしい。

となると?


「薬草の分別か採取か。採取がポピュラーとは言われてるが、見識眼がないと俺らにはどれがどれだか見分けがつかないんだ」

「だめじゃん。アルバイト的なのはないのか?」

「解体作業的なのがあるけど」

「パスで。俺血を見ると失神する自信しかないんだが」

「草」

「これから戦闘するかもっていうのに磯貝はさー」

「もっとグロ耐性つけないと異世界じゃやってけないぜ?」

「うげ、ハードモードじゃん。お前らよく平気だよな」

「あとは魔石の補填作業かな? 魔石って言うのはこっちの世界での電池的な役割でさ。ゲームだとモンスターがドロップするけど、こっちでは炭鉱から出土する宝石の類なんだ。マナの籠ってる石を総じて魔石って呼んでるぞ。街路灯とかの明かりは殆ど魔道具で、レグゼルは魔道具としての街でも有名なんだ」

「へぇ〜」


そこまで麻生が語ると、全員の視線が笹島さんに移った。


「ちょ、全部あたしに押し付けるつもり!?」

「俺たちのために悪いね笹島さん」

「ごめんね? 疲れたら肩こりを『解呪』くらいは出来るから」

「熟練度稼ぎ熟練度稼ぎ」

「あんたら、覚えときなさいよ〜〜」


こうして笹島さんの頑張りで俺たちは異例の速さでランクアップした。

笹島様々である。

今後足を向けて寝れないね。

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