それはとても蒸し暑い授業での出来事だった。
室温は40°を超え、今日に限ってプール授業は中止。
このまま授業を続けたら、死人が出るのではないだろうか?
既にへばり始めたクラス一の美少女すらも、今この時は人に見せられない姿を晒している。
誰もが直射日光から避ける様に教室の中を机ごと移動している時、それは起こった。
建物全体が突然の縦揺れ。
震度3はあろう地震に俺たちクラスメイトは暑さを忘れて慌てふためく。
すぐに揺れは収まったが、問題はその程度じゃ一度騒ぎ始めた生徒達が収まらないという事だろうか。
すぐに担任の桂木先生が他の先生の指示を仰ごうと教室を出た時、状況が一変する。
教室の外が、どうも俺たちの知ってる廊下につながっていなかった。
ちょうどその時、俺の頭の中でインターホンが鳴った。
ピンポーン
──────────────────────────
❗️ <転移先にレグゼル王宮が追加されました>
──────────────────────────
何だ? 転移先?
まるで分からん。なんかゲームやってる時の告知か何か?
でもここ現実だしな。
そもそも頭の中から聞こえるとか軽いホラーやん。
すぐに外で理由を聞いていた桂木先生が、クラスメイトを牽引して男女別に二列で並ぶ様に指示していた。
外はまるでお城の中の様で俺たちを囲む様に武器を携えた騎士達が周りを囲んでいた。
「よくぞ我らの願いを聞き届け、参上してくださいました勇者様方!」
大仰に、それでいて芝居が勝った身振りで感極まった様にその場で膝をつく複数の老人。
その後ろには偉そうにふんぞり帰る大男。
すぐそばにはまるで絵本から飛び出した様な王女様がいた。
クラスの男子達の鼻の下の伸び具合ときたらない。
女子から早速お小言をもらっていた。
老人達はどうやら俺達をこの場所に呼べば後はお役御免だった様で、その後は肥え太ったおじさんが引き継いで語ってくれた。
どうやら俺達はこっちに来た際にスキルを獲得した様だ。
帰れるか帰れないか?
その質問は破棄され、クラスメイト及び先生までもがスキルの有無で評価分けをされた。
俺の能力はこうだ。
─────────────────────
アキラ・イソガイ
スキル:転移LV1
<転移先>
→教室【即時可能】
→レグゼル王宮【167:59:30】
──────────────────────
ものすごく気になる場所があったので、教室の場所をタップした。
すると授業中の俺たちも感じた縦揺れが、このお城全体から聞こえてきたではないか!
慌て出す王様達。
そして肥え太ったおじさん達は騎士達を先導して何かを探させた。
奇襲か何かだろうか?
しかしそれは全く違う形で訪れた。
異世界では鳴らない筈の携帯の通知が急に鳴り出したのだ。
それはSNSの通知が届いた時のモノで、つまりここは俺たちの知ってる世界という意味で。
「大変です、王様! 魔道具が一切使えません!」
「なんだと!? いったい何が起きたというのだ」
「外見て! 警察の人いっぱい来てる!」
王宮の外では、突如高校に生えた王宮を一眼見ようと野次馬達が押しかけ、窓から顔を出した生徒達が激写されている。
ピースなんかして注目を浴びるクラスメイト達。
あーこれって、俺何かやっちゃった感じ?
その後スキルを見たら同じ様な数字が並んでいた。
─────────────────────
アキラ・イソガイ
スキル:転移LV1
<転移先>
教室【167:59:15】
レグゼル王宮【167:21:06】
──────────────────────
これって、あの感覚からして、一度転移した場所に戻るのにこれぐらいの時間を必要とするって意味だろうか?
微妙に使えなくね?
再び照りつける灼熱の太陽の元、事情聴取と異世界からのお客さんを連れて俺たちは授業を受けなくて済んだ。
冷房のガンガン効いた部屋での事情聴取は天国だったと付け加えておく。