8年前の春
高校生の一ノ瀬 湊に生まれて初めての彼女ができた。周りからもてはやされて、付き合ってしまいなさいよっていう流れでどちらかが告白というよりかは一緒にいる時間が増えてそのまま彼氏彼女じゃないかと言われただけだった。バスケ部の部員とマネージャーという良くありがちなポジションだ。
そこまで彼女に対して思い入れはないが、一緒にいて心地が良くリラックスしていた。
彼女の顔のかわいさも普通、性格も悪くない、友人は少なめな方だが、
大事にするようだった。評判も悪くない。名前は覚えていない。
湊はというと、ファンクラブができるくらいモテモテで彼女になるには試験があるとかという話をきいたことがあった。あくまで外野の話だった。
実際はそんなことない。名前を覚えていない彼女は優しい人だと思っていた。
手を繋ぐのも、デートをするのも、その子が初めてだった。
数ヶ月付き合っていくうちに彼女の家に遊びにいくことになった。
夏休みの昼下がり、両親は仕事で誰もいないのと誘われた。
健全なる高校生男子。生唾をごくりと飲む。
彼女の部屋に2人きり。いい雰囲気であと少しでというところで湊は上半身裸になった。
「ごめん、無理。できない」
「え……」
興奮状態マックスでこの気持ちをどこに発散すべきかとモヤモヤした。
何が行けなかったのか、肌を露出してしまったからか、触り方か、場所か、時間か、明るさか。 あらゆる理由を探したが、結局何が嫌になったのかわからなかった。
湊はどうにか理性をおさえてすぐに服を着た。未遂で終わったのだ。嫌だというのだから無理にはできない。無理やりやるものじゃないってそう思った。
湊は機嫌を損ねた彼女と一緒にいるのは苦痛だったため、もう帰ると外に出た。それが彼女との最後の会話だった。翌日の学校で彼女は湊と話すことはなく、部活にも顔を出さなくなった。
モテモテだと言われていた湊でさえもコンプレックスになる。
本当に心を許した人でないと最後までやりたくないという思いを胸に誓っていた。しばらく経ってから同窓会で会った時にどうして、できなかったのか理由を尋ねたことがあった。
それは、想像以上に筋肉が少なくてガリガリで細かったことと、本当は湊をそこまで好きじゃなかったと言っていた。
真実はわからないが、そう言われた。湊は女性に対して人間不信になっていた部分があった。本能を解放できない。大学生24歳の今。
杏菜はそれとは逆に本能がダダ漏れている。
羨ましかったのかもしれない。自分にはできない尻軽女と罵って、自分はそうじゃないんだと言い聞かせていたのかもしれない。ホストたるもの、女性を抱けなくてずっと続けるのは相当の我慢をしていただろう。それでもいいと言ってくれる女性はたくさんいた。それで救われた部分もある。
かといって、晃太のようにセラピストとして働いて克服するほどのスタミナとパワーはない。そもそも女性を信じていないのに誰でもいいわけではない。
これはもう自分自身との戦いなのかもしれない。1人ベッドで服のまま横になって、風呂も入らずに寝入った。誰もいない空間で1人で過ごすのは心寂しかった。隣に誰かいてほしい。それが誰でもいいわけではない。夢の中に出てきてくれないかと考えてしまう。その想いを未だに認めたくない湊だった。