「んで?」
コーヒーを飲み干して、湊は聞く。
「え、だから。大学でその後、あったら、俺、怖くなって。仕事上、そういうことを致したわけだけどさ。いや、リアルでは無理っしょ。切り替えスイッチ入れてやったわけで……彼女でもないわけだし。お金もらってるのよ。バイト代ね。ちょうどそれで、欲しかったゲームソフト買ったけど」
「……だからって、大学休んだら、単位取れなくなるっしょ」
「……そうかもしれないけど。あいつと会う時、どんな顔すればいいんだよ。無理……無理」
顔を両手で覆った。湊はケタケタと笑った。何だか面白くなってきた。
「何、笑ってるんだよ。俺にとっては深刻な問題なのに……」
ずずいと晃太の前に顔を近づけた。
「付き合っちゃえよ。そのまま。そしたら、気持ち落ち着くんじゃね?」
「え、だって、それは御法度じゃない? 契約違反っしょ」
「仕事やめてさ」
「あー……そういうこと」
「大学中退したら、やばいんだろ。親に怒られるって、言ってただろ。だから、バイト優先より、
大学を重視しろよ。お前んち、金持ちなんだから」
「ま、まぁな。金はすぐ出してくれるけど。いや、でもまぁ、そういうことじゃなくて…
そういうことなのかも?! ちょっと連絡とってみるかな?」
湊は腕を組んで、促すジェスチャーをした。晃太はスマホを出して、楠本に連絡をとった。
連絡先は会社のアプリからのDMしか手段はない。個人の連絡は禁止されている。
『こんにちは』
とメッセージを打っただけで返事は
『次はいつにします?』
とかなり積極的だ。でもこれはきっとビジネス目的。彼氏彼女ではない。ここから、親密な関係に持っていく。むしろ、
康太のことをどう思っているのか。晃太自身も彼女を好きなのかさえ、わからない感覚だ。お金で成立する関係は怖いものがある。
でも、身近で素性がバレて、どんな人かもわかってしまう。危険が及びそうな気がした。
「なぁ、湊。大学に会った時の楠本ってどんな感じ?」
湊は、タバコに火をつけて、煙を吐いた。灰皿に灰を落とす。
「え? えっと……。お前との関係は秘密って言われたぞ」
「ですよねぇ。それ、ペラペラと話したら、神経疑うわ」
「あ、あれ、ちょっと電話だ」
湊は、スマホのバイブに気づいて、電話に出る。名前を確認せずに慌ててスワイプして通話ボタンを押した。晃太は、スマホのメッセージは楠本になんと送ろうかと悩みに悩んでいた。晃太の部屋のベランダに出た。空には飛行機雲が伸びていた。
明日は雨だろうか。