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第17話 謎めく女子と友情の絆

白髪の教授がホワイトボードに黙々と書き始め、情報学の重要性と基本概念についての簡潔な概要を説明した。また、データ構造、アルゴリズム、プログラミング言語の基礎の講義をしていた。ここは、一ノ瀬 湊が通う情報学部の大学だ。湊は段になっている座席の上の方で頬杖をつきながらコックリと眠りについていた。


「あの、すいません」

「ぐーーー」


 誰かが肩を揺さぶった。


「ふへっ! あ、悪い、晃太。また俺、寝てたわ」

「違います。楠本亜弥くすもとあやです」

 女子に話しかけられて焦ったざざっと湊は後退した。

「え、あ。ごめんなさい。楠本さん。ありがとう」


 正気に戻り、一気に目が覚めた。金色丸メガネで、ふくよかな体型。鳩胸な楠本は、ハイネックの灰色セーターにひだの多い赤いミニスカートを履いていた。足元は黒のニーハイブーツ。ふくよかでもスタイルは良かった。白い肌にまつげが長かった。


「一ノ瀬くんだよね。ごめんね、起こして。いびき、大きくなっていたからさ」

「あー、そっか。悪い悪い。さんきゅ。てか、晃太知らない?

 来てなかった? 気のせいか」

「渡辺晃太くん?」

「うん、そう」

「あー……多分、休みかな」

「あ、知り合いだった? そうなんだ。残念。 最近、会わないんだよな。何してんのかな、あいつ」


 授業中だったか、机の下でスマホをポチポチといじって、

 ラインを開いた。晃太にメッセージを送る。



「晃太くん、風邪引いたじゃない?」

「え……?」


 湊がメッセージを送る前に楠木亜弥が話す。


「ちょっと待って。楠木さん、晃太とどういう関係?」


 亜弥は、口元に人差し指を作った。何も言わない。授業終わりのベルが鳴る。


「よし、今日はここまで。板書して、来週テストするから。以上です」


 ほとんど話すことが少ない教授は、ノートをまとめて、講義室を後にした。隣にいた楠木亜弥は、ノートや教科書をまとめてバックに入れて、立ち去っていく。


「あ、待って」

「内緒だよ」

「……え」

「バイバイ、一ノ瀬くん」


 謎を残して、楠木亜弥は、いなくなってしまった。授業を受けていた生徒たちは、ざわざわと騒がしく、講義室を出ていく。 湊1人、取り残された。後ろ頭をかいて、スマホをポケットから取り出した。


「どういうことだよ。晃太のやつ!!」


 通話ボタンを押した。何度もコールするが、さっぱり出なかった。何か嫌な予感しかないと授業を抜け出して湊は晃太のアパートに向かった。



 ◻︎◻︎◻︎



 晃太の部屋のチャイムが鳴る。長袖Tシャツとラフな格好で お尻をぼりぼりとかきながら、晃太は、玄関のドアを開けた。


「はい? どちら様?」

「はいじゃねぇよ。なんで大学来てないんだよ」

「あれ、湊? 久しぶり」

「って、どういうこと? 風邪引いてるのかよ?」

「……まぁね。少しだけ。てか、仮病だけど。ほら、中入ったら?」


 湊は靴を脱いで、晃太の部屋に入った。殺風景な部屋。シンプルなインテリアだった。本棚にびっくりと難しい本が並んでいるかと思ったら、 テーブルに座布団。大きいベッドがあった。極端に物が少ない。綺麗な方だ。ミニマリストってやつなのか。


「晃太の部屋って綺麗だな。生活感がない」

「そう? 初めてじゃないだろ。別に」

「まぁ、いつかも来たことあったけど。というか、なんで講義休んだ?」

「え、それ、聞いちゃう? 待って、コーヒー淹れてからでもいい? 目、覚ますから」


 湊は胡座をかいた。じっとコーヒーが来るのを大人しく待っていたが、気になった。


「あのさ!」

「え?」

「楠本亜弥って知ってる?」


 その名前を言った瞬間、晃太は動揺して、2つ持っていたマグカップをシンクに落とした。


「……は? 何、その動揺?」


 湊は晃太の様子を見て、何かを隠してると悟った。ベランダでは、スズメ3羽が空に飛び立った。

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