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第16話 交わる三角関係 紡がれる絆

エレベーターのドアが開いた。

中には、汗をかいて走ってきたであろう一ノ瀬 湊、源氏名はアキラがいた。杏菜の顔を見て、ほっとしたのかぎゅっと抱きしめた。


「良かった」


息が荒い。なんでここにいるのかわからない。杏菜はなぜここにいるのかという疑問と、なぜだか裏切ったみたいで罪悪感が芽生えた。


「……湊、なんでここに」

「杏菜のGPS見て、ここに来た。やっぱり心配になって……。

 あいつは? ヒカル」

「えっと……。えー、そのー」


 肌ツヤがツルツルしてるのを見て、湊は何かを悟った。


「風呂入った?」

「……えっと、どうだったかな」

「化粧水つけまくった?」

「えー……そのー」

「事後ってことか」

「えー、違うよ、まさか。そんなわけないじゃん」

「尻軽女が良く言うよ」

「は?!尻は軽くないわよ。どちらかといえば胸の方が軽いわ。悲しい……もっと大きくなりたい」

「……質量の問題じゃねぇよ。んで?ちゃんと防いだ?」

「……湊、保護者みたい」

「お前の母さん、そういうの言わなそうだから代わりに聞いてんだろうが!」


 ジッポのライターをカチカチと鳴らして、早くタバコが吸いたそうだった。イライラがとまらない。ストレスだ。


「それ、言わないといけないの? 湊に?」

「ああ、だって、どうすんだよ。できたら」

「……できないよ。」

「は?」

「ちゃんと飲んでるからピル。安心して。んじゃ」


 杏菜は急にしおらしく、エレベーターのスイッチを押して、 下の階に向かった。エレベーターの中に2人きりになった。 狭い空間で湊の香水が漂っていた。


「湊。なんの香水つけてるの?」


 何でもない話をしようと声をかけた。


「お前、何してんだよ」

「え?」

「なんで、笑いながら、泣いてるんだ?」


 頬に手をつけて涙を確認した。


「嘘、泣いてると思ってなかった。なんで涙、出てくるの。

 別に、悲しくなんてないんだよ。湊、来てくれて嬉しかったのはあるのに……」


 湊は、杏菜を自分の胸に引き寄せた。気持ちが落ち着くまで

ずっと抱きしめていた。頭をそっと撫でた。右の指でそっと涙を拭った。


「犬みたいに撫でるのやめてほしいな」

「俺のペットみたいなもんだ」

「そういうこと言わないでもらえる?」

「……カルガモだった。」


 真面目に間違った。


「そうじゃなくてさ」


 神妙な面持ちで下を向く杏菜。


「何か嫌なことされた?」

「ううん。嫌じゃなかった」

「んじゃ、いいだろ」

「なんか違うかなって思って」

「は?」

「だって、湊じゃなかったから。顔だけ湊だったら良かったかなとか」

「俺の何を知ってるんだよ」

「湊はやらせてくれないから。顔が湊で他はヒカルさんとかね」

「ん? 俺は、一体、何を聞かされているんだ。とにかくだ。 俺は、やらないからな」


 1階にエレベーターが着くと3歩先に進む湊を追いかけて

 杏菜は左腕をがっちりと掴んで歩いた。湊は抵抗しなかった。交際はしてない。家族ではない。同居人でもない。肩書は家主と借主というような感覚でほぼ他人に近い。それでも2人で一緒にいる空間はお互いに心地良かった。



 その気持ちに気づくのはしばらく後になってからだった。一緒にいる時間が短く感じた。

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