「杏菜ちゃんはどれ好きなの?」
ヒカルは、街中にある真夜中に開いてる
アイス屋さんにいた。
今、流行っているらしく、そこに顧客を
連れて行くとイチコロだとヒカルは
思っていた。
「あー、でも、さっき残してきちゃったけど、クリームソーダ飲んだので……今は、そこまで欲してないかなとも思うんですが……。でも、ピチピチピーチってネーミングが良いですね。美味しそう」
「んじゃ、杏菜ちゃん食べて、残ったのは俺が食べるから。一つは無理なんだよね」
「え、そんな注文、何だかお店の人に申し訳ない」
「違う違う、シェアするってこと。スプーンも2つ貰えば良いでしょう」
「……まぁ、はい。お願いします」
ヒカルに言われるがまま、アイスを注文した。金額は780円。アイスにしては高級だ。杏菜は高いからケチった訳じゃないよなと疑いの目で見た。
「はい、杏菜ちゃん。先に食べて。美味しいところ。ピチピチピーチ」
イートインスペースで恋人のように向かい合って座った。黙々と杏菜はスプーンで食べた。 頬をおさえながら
「美味しい」
円満の笑みを見せた。
「ぴちぴちだから若い杏菜ちゃんにぴったりだね」
ぶーっと吹いた。
「ちょ、ちょっとそれはおじさんくさいですよ、ヒカルさん」
マスクを顎の下にサングラスも外して、素顔を見せた杏菜は、笑いが止まらなかった。ヒカルは、杏菜のマスクの下の顔を初めて見て、驚いて見せた。
「ん? どうかしました?」
「……杏菜って……笹山?」
「え、はい。そうですけど」
その言葉を発した瞬間、後ろから追いかけてきた湊人が杏菜の左腕を掴んで、座っていた体を立たせた。
「あのさー、アキラ、接客中に邪魔すんのやめろって言っただろ? この間さ」
異様な空気の中立ち上がる。杏菜は2人の間に入り、おどおどする。
「ヒカルさん、それはこっちのセリフっす。この人、俺の客なんで……」
「客? さっき追い出していただろ。客じゃないだろ。俺が店に入れたんだから俺の客だ」
ヒカルが湊人をガンつけた。湊は、殺気立った目で睨む。見たことない湊人に怯えながら、2人の間に入って、仲裁しようとした。
「杏菜は向こうに行ってろ。これは、ケリつけないといけない」
「ああ? ケリつけるって? そんなのしなくても俺の客を盗むのは泥棒だぞ」
一触即発だ。
「2人ともやめてよ!! 私は、商品なんかじゃない!! アイスのお店の人に迷惑だから外出るよ!!!!」
怒りスイッチがピークになった杏菜は、湊とヒカルのスーツの首根っこを掴んで、ずるずると引きずった。想像以上に力持ちだった。引きずっている間にもパンチキックで喧嘩してる2人に杏菜は蹴りを入れた。
急におとなしくなる2人。
真っ暗な夜、路地裏の自販機の前にある花壇に3人は離れて座った。せっかくのアイスを残してきたことを杏菜は悔やんだ。
「全部食べられなかった。高級なアイスだったのに」
冷静になった湊とヒカルは、静かになった。杏菜の言葉に湊は、ぽんっと頭を撫でた。自販機に小銭をいれて、飲み物を買った。杏菜に手渡した。温かいコーンスープだった。湊はヒカルにも缶コーヒーを渡した。威嚇するようにはじめは受け取ろうとしなかったが、冷静になって突きつけられた飲み物に素直に受け取った。
湊は缶コーヒーのプルタブを開けて、ごくっと飲んだ。
「高校生のおもてなしはこれでいいな」
「な? 18歳ですよ!!」
「お前にはまだ早い」
「え?! 高校生?」
ヒカルは目を丸くして驚いていた。
「だから言ったろ? 高校生って」
「確かにあの店は高校生厳禁だな」
「わかってて連れ出したんじゃないのか?」
「……いや、お前の客だと思ってな」
ヒカルは後先考えず、アキラの客はもらおうという魂胆が抜けなかったようだ。
「湊……がホストクラブで働いていたなんて……」
「って、おい! 本名晒すなよ?!」
「あ、ごめんなさい」
杏菜は口を両手で塞ぐ。ヒカルは横でその様子を伺って見ていた。
「アキラは湊って言うのか。全然違う名前だね」
「……すいません。アキラで通してるので……」
一応、職場の先輩後輩。規則があって、お互いの本名などの
個人情報は探らないことになっていた。些細なことで出てしまうこともある。
「でも、妬いちゃうなぁ。だって高校生でしょう。それこそ、ピチピチのギャルだし。あれもすごそうだもんね、湊くん」
ヒカルは湊の横に立ち、小声で言う。
「……俺、そういうのやってないんで。それに、杏菜は彼女じゃないので、でも、高校生だから手出さないでくださいね、ヒカル先輩」
「えー、同意の上なら、彼女として付き合っても何ら問題ないっしょ? ね? 杏菜ちゃん?」
ヒカルは、杏菜の横に立ち、肩をつかんだ。
「えー……。どうしようかな」
NO.1のヒカルに惚れられたら嬉しいなとまんざらではない様子の杏菜。その姿を見た湊人の額に何個も筋が出る。
「ああ?!」
誰に怒っているのかイライラが止まらない。
「あ、いや、でも、私、湊に借りがあるので、お付き合いはちょっと……」
「借り? そんなの俺が代わりに立て替えるよ?」
「え? 本当ですか?」
また吸い寄せられる杏菜。湊の顔はずっと怖い顔のまま。
近くにあった電灯をガツンと蹴りを入れる。
「……もう知らない。勝手にしろ!!」
そう言い捨てて、湊は、ネオン輝く繁華街の方へ姿を消した。
「杏菜ちゃん、大丈夫?」
子いぬのような可愛らしいヒカルの顔にきゅんとなる杏菜は
蜜に吸い寄せられる蜂のように目がハートになっていく。
「杏菜ちゃん、あっちの方いこうよ!」
もうヒカルの誘惑にスルスルと導かれていく。