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第12話 杏菜と湊がホストクラブで

シャンデリアラウンジに初めて訪れた杏菜は、ホールスタッフに案内されて、ふわふわのソファに腰掛けた。お姫さま待遇がとても心地よい。女子を丁寧にもてなすのがホストクラブ。


ユウジが膝を床につけてしゃがみ、杏菜におしぼりを渡した。


「いらっしゃませ。お客様は当店は初めてでいらっしゃいますか?」

「は、はい! そうです。よ、よろしくお願いします」


ホストクラブは基本18歳未満は来店不可だったが、杏菜は

マスクとサングラスでごまかそうとした。ユウジは杏菜にメニュー表を渡そうとすると急にアキラが乱入してきた。力強く、杏菜の腕をつかんで、店の外に連れてっていった。


「アキラさん?! どうしたんですか?」

「悪い、これ、俺の連れ」

「ちょ、ちょっと、離して!!  やめてよ!!」


 杏菜も力一杯に腕を振り払った。お店出入り口の階段踊り場に強引に出された。


「なんで、ここに来てんだよ!? お前、分かっているのか!? ここは高校生は立ち入り禁止だって言ってんだろうが!!」


 外の看板の注意事項の欄をバシバシ叩いた。


「ど、どちら様ですか? 私、18歳ですよぉ」


 杏菜は、ビクビクと返事した。見たこともないお怒りの様子の湊。杏菜は帽子を深くかぶって目を隠した。


「あのな!? しらばっくれるのもいい加減にしろよ。高校生入店させたら店は摘発なんだぞ。 知っててやってるのか?」


 額に青筋を立てて、鬼のように怒る湊にツツツーと後ろに下がった。階段から転げ落ちそうになるところを騒がしいと思ってかけつけたヒカルが、杏菜の背中を支えた。


「おいおい、若いからって女性であることは変わりないだろ。

 アキラ、気をつけろよ。お店の前だぞ」


 いつも見せない優しいそぶりのヒカル。舌打ちをして、そっぽを向く湊。杏菜はビクビクと体が震えていた。


「さぁさぁ、18歳なら問題ないだろ。中に入りな、お嬢さん」


 ヒカルは、左肩に右後ろ側から手を添えて杏菜を中へ誘導をする。顧客をまた引っ張っていくつもりなんだろうかと焦りを見せる湊。


「おい!!」

「……お邪魔しますぅ」


 杏菜は、すり抜けるようにお店の中に入っていく。複雑な表情を浮かべる湊。


「俺、知らねえからな!!」


 大きな声をあげて、訴えるが、中に入っていく杏菜の耳には

 聞こえてなかった。湊は店の出入り口そばの壁を思いっきり

 拳でたたいた。頑丈にできていて壊れることはなかった。


「あいつ、また邪魔しやがって……」

「いらっしゃいませ。ご注文は何にしましょうか、お姫さま。18歳だからソフトドリンクかな。今は、メロンクリームソーダが人気ですよ。どういたしますか?」


 ヒカルは杏菜の隣に座ってメニューを

 見せた。ムスクの香りが漂っていた。


「あ、それじゃぁ、クリームソーダでお願いします」

「アラカルトもあるから適当に頼んでいいかな?」

「はい、お任せでお願いします」

「OK」


 ヒカルはパチンと指を鳴らすと、ホールスタッフを呼んで次々と注文をしていく。


「メロンクリームソーダととり唐揚げ、あとフライドポテト、ポッキーとポテトチップスもいいかな」

「あ、お金の心配は大丈夫ですので、それなりに注文はできます」

「そんな、いいよ。気にしないで、初回はサービスたっぷりするから」

「え、あ、すいません。ありがとうございます」


 杏菜が座るテーブルに飲み物と頼んだメニューが次々と並べられていく。


「そしたら、この出会いに乾杯だね」


 カツンとコップがふれる。


「聞いてもいい?」

「え、あ、はい」

「アキラとは、どんな関係?」

「え? アキラ?」

「だから、さっきの。金髪で一緒だったでしょ? この店のN o.2」

「ああ、そうでした。アキラさんとは……あれ、アキラさんと私ってどんな関係だったかな」

「ん? 付き合ってないのかな?」

「そうですね、確か、カルガモの親子って言われたような……」

「何、それ。親子? 面白いね」

「いえ、アキラさんが言ったので」

「かわいそう……」


 ヒカルはジリジリと杏菜のそばに寄って、手に触れた。


「あ、いえそんなことはないですよ」

「だって、カルガモ扱いされているんでしょう」

「……よくわからないですけどね」

「俺なら、そんなかわいそうなことしないのに……」


 ヒカルは、杏菜の耳元でささやいた。顔から耳に真っ赤に染めた。少し離れて、腕を組んで見ていたアキラである湊はおとなしくしていた。


「ほら、アキラ、こっち見て、嫉妬してるよ? 名前、そういや、なんていうの?」

「あ、杏菜です」

「可愛い名前だね」


 パーソナルスペースがかなり近い。ヒカルは、耳元でずっと囁いてくる。


「これ終わったら、一緒に外出かけてみる?」

「……え?」

「俺は、悪いようにはしないよ?」

「……えぇ?」


 恥ずかしそうにクネクネと照れる杏菜はまんざらではない様子。声も癒される響きで、顔も肌が白く、子犬のような甘いマスクであるヒカル。NO.1になるのもわかる気がした。



「杏菜ちゃん、頑張ってるんだもん。褒めてあげたいよ」



 左で覆うようになでなでされて、居心地良くなってきた杏菜は誘惑にまんまと引っかかってしまってるようだ。ヒカルは、ホールスタッフに声をかけるとすぐに外出の準備をした。


「ほら、行こう。夜景の綺麗なところを連れていくから」


 食べたり、飲んだりするのも束の間、ヒカルは、アキラの横を通り過ぎて、どや顔を見せつけた。杏菜は、気にもかけず、ヒカルの左腕をつかんで、お店の外に出かけていった。


「アキラさん、知り合いなんですよね。大丈夫ですか?

 ヒカルさんに預けて……」

「……」


 ポケットに手をつっこんで、ソワソワしていると、ダンッと足で音を鳴らし、ジャケットを羽織った。


「アキラさん、予約のお客さまはどうするんですか?」


 ユウジが外に出かけようとするアキラに声をかける。


「あー、適当にヘルプに任せててくれない?」


 仕事に手抜きをすることがないアキラからは想像もつかない発言にユウジは目を丸くした。


「いいんですか? 常連のミカさんですよ?!」

「ああー、なおさら、大丈夫。なんとかなるから!」


 お店のドアを開けて、アキラは、ヒカルと杏菜の後ろを追いかけた。必死で走ったのはいつぶりだろう。杏菜と交際していないのに。


 カルガモの親子とは言ったけども、誰かと一緒にいるのを見るのは、酷だった。


 額から汗が、乱れたワイシャツに髪のセットが崩れていた。


「杏菜!!」



 街中の交差点、ヒカルと隣同士に歩く杏菜に思わず声をかける。ヒカルはアキラの声なんて気にするなと急いで、横断歩道を駆け出していく。


「あ、ちくしょ!!」


 歩行者信号が赤になって、間に合わなかった。なんとも付いていない。アキラは、スマホを駆使して、設定していた杏菜のGPSを確認した。


「よかった、設定解除になってない」


 アキラは、安堵した。信号機がカッコウと鳴らしている。細い三日月が夜空を照らしていた。

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