繁華街にネオンが輝いていた。キラキラ光る店にガヤガヤと通りすがる人の群れ。湊は、両手をそれぞれのポケットに入れて、半ば胸はってズンズンと進んでいく。まるで獣でいうところのライオンのように威張っているようだ。
夜の街の中、いつものようにホストクラブへ向かう湊、横からホールスタッフのユウジが声をかけて隣同士歩き始めた。その数メートル後ろをマスクにサングラスという怪しいかっこうをしてした杏菜は見つからないように尾行していた。
「よ、ユウジ。昨日も俺、あいつにいじられたよ。そんなに俺が好きかね」
「アキラさん、お疲れっす。魅力的なんじゃないですか?
あの人、嫌いな人にはガン無視ですから。気に入られてますよね、ある意味」
「俺も嫌いの1人じゃないの?」
「嫌い中の好きがあるのかもしれないですよ。歌にもありますよね、大嫌いでも大好きみたいな……」
「俺は、彼女か?! どちらかといえば俺は、攻めがいいつぅーの」
「アキラさん、何の話してるんすか?」
突然、真面目な顔をするユウジ。
「別に……。とにかくなぁ、あいつ本当に仕事の邪魔するからさぁ、面倒なんだってば」
「嫉妬心強いから仕方ないっすよ。それでも、アキラさんについてくるお客さんいっぱいいるから自信持ってくださいよ。お店のNO.2なんですから。そのうち、ヒカルさん超えますよ。 ファイト!」
「それはそれで、嫌な予感しかないよなぁ。上に上がるってそれなりの代償があるっていうだろう?」
「まぁまぁ」
お店の外階段の前に着くとユウジはアキラの背中を押して、 駆け上がる。あまり乗り気がしないアキラ(湊)。その後ろをなんだなんだと興味津々で着いていく杏菜。
ここはどこだとまるで違う世界に来たみたいだ。スタッフの紹介看板を見て初めて、湊がホストクラブで働いているんだということを知った。名前は源氏名「アキラ」と書いてある。
いつか貰っていた軍資金と言われるお金はまだまだたんまりある。
どんな感じで湊が働いているか、すごく気になった。杏菜は、茶封筒に入っていたお金をしっかりと自分の長財布に移し替えて、あたかも自分は金持ちだと装った。チャックをしめるとはじの方がひっかかり万札が少し破れたところがあった。
(やば。こんなの見られたら、お金を使い慣れてないって思われるかも)
杏菜は慎重に財布のチャックをしめた。深呼吸して、ホストクラブの看板とポスターをマジマジと見た。開店時間は、午後6時と書いてある。現在は午後5時半。あと、30分はかかる。
ジロジロとポスターを見ると、NO.1の写真をじーっと見る。どこかで見たことあるようなと顎に指をつけて考えていると、噂をすれば、NO.1のヒカルとその取り巻きがお店の中にゾロゾロと入っていくのが見えた。高級なスーツと腕時計。キラキラとしたネクタイ。髪型も決めてきましたというようなスタイルだった。さすがは、ホスト。着飾り方は半端なかった。ずっと、店の前で行き交う人の人間観察しながら、時間つぶししてると、ホームレスのおじさんが、空き缶や新聞を背中に背負って、通り過ぎたり、小型犬をリードで繋いで、散歩するマダムが通り過ぎていく。街の中をあまり見たことがなかった杏菜は新鮮な気持ちで見れた。定時制高校に通う人間関係もここの街を通る人に似ているなと感じた。 様々な事情があって、全日制に通えない学生はたくさんいるだろう。現役時代に高校卒業認定を取れなかった成人男性や、子育てをしながら、一念発起して、通っている主婦もいる。人生いろいろだなと勉強になる。そんな脳内でかんがえながら、いつの間にか湊が働く、 ホストクラブ『シャンデリアナイトラウンジ』には予約していたであろうマダムや、若いピチピチのドレスを着た女性が中へ入って行く。杏菜もそんなお客の中に紛れて、お店のドアを開けた。キラキラ光るミラーボールが目に映る。スタッフ総出でお客様一人一人をお出迎えしていた。
「お客様!ご来店です。いらっしゃませ!!」
「いらっしゃいませ」
杏菜は、心臓がドキドキと止まらない。ホールスタッフもイケメン揃いでどこに目を向ければわからなくなる。奥の方で、お客さんを待ち構えていたアキラ(湊)は、遠くからマスクにサングラスになっても杏菜が来たと察した。湊は、息を飲んで、今までないくらいの驚いた顔を見せていた。