お店の自動ドアが開いた。出入り口のマットに足があると
すぐにチャイムがなる。
「いらっしゃいませー」
杏菜は、オムライス専門店のレストランでホールのバイトをすることになった。結局は、ミカに源氏名『アキラ』が大学に通う学生ということがばれてしまい、素性を職場にばらさないという条件で個人スマホの連絡先を交換した。
源氏名『アキラ』である湊は、個人的に交流ある女子は少なかったため、杏菜のバイト先にちょうどよいなと紹介してもらった。 湊は杏菜は彼女じゃないと言い訳したが、杏菜は複雑な気分で、何もしないよりはいいだろうとすぐにokを出した。すごくミカに嫉妬はしていた。
「新しく入った子。物覚えいいね」
店長がミカに話しかける。
「そ、そうですか。よかったです。私の知り合いっていうか
友達の友達っていうつながりです」
「あれ、定時制の高校通ってるだって? 珍しいよね」
「……よくわからないですけど、そうみたいです」
「若いのに苦労してるね。将来が楽しみだな」
店長はニコニコとミカの肩をたたいて、厨房に引っ込んでいく。ミカは、両替のお金を確認してレジの引き出しを閉めてためいきをついた。
(アキラとどういう関係なんだか……全然教えてくれない)
○○○
杏菜が、母の真由子の家を飛び出して、3か月。学校の退学届、定時制の学校の入学届。中途入学も受け入れていた。4月と10月に入学手続きできるとなっていた。
保護者として、必ず母に連絡しなくてはいけなかったが、昼夜逆転する母に連絡するのは困難を要したが、杏菜が家を出たと思って気持ちがすっきりしたのが、精神的に安定していた。新しい彼氏を自宅に招いていたこともあり驚いた。
自由に暮らしたかったのだなと改めて知る。子育ては18歳までもしくは20歳までというが、親としては、耐えられない人もいるのだろう。湊に会い、自宅を用意してくれるなんて
ものすごい感謝だ。母もはじめは信じられなかったが、数か月も経てば、信頼されていく。
湊は、底しれぬ魅力的な何かがあるのかと杏菜は横で見ていて感じていた。
「湊くんさ、私と同じ匂いする気がするんだけど気のせい?」
「え、気のせいっすよ、真由子さん」
杏菜の前で話す2人。うまいようにごまかしていた。湊がホストだということは杏菜は知らない。ホステスである真由子は同じ空気だと感じた。同業者のような雰囲気だろうか。高級時計にしゃれたスーツにネクタイ。わかる人にはわかるだろう。
夜の世界を知らない杏菜は首をかしげるだけだ。金持ちでスーツだけで、どこかの会社を経営する社長だと思っている。
「湊、お母さんの店行ったことあるの?」
「いや、一回もないけど」
「同じ匂いってどういう意味?」
「知らねえよ」
湊はまだ高校生の杏菜にはなぜか隠しておきたかった。秘密ばかりの湊に謎を解き明かしたいと思い始めて来た。
とある日のバイト終わり、杏菜は、これから仕事だという湊人を自宅から尾行することにした。夜から始まる定時制の学校は風邪引いたと嘘ついて休んだ。つばのついた帽子を深くかぶり、サングラスとマスクをして誰かわからないように湊人の数メートル後ろを追いかけた。
街中の歩道は、行きかう人で混んでいた。