ホストクラブの常連客のミカがオムライス専門のレストランで働いていた。源氏名のアキラだと気づいたミカは、ドキドキしながら、会計を待っていた。
晃太ともみ合って、結局自分が払いに行くことになった湊人は素知らぬ顔をして、ズボンの後ろポケットから財布を取り出した。
「ありがとうございます。伝票お預かりします」
ミカはエプロンをつけて仕事に集中すると湊が会計に来てることに気づいていなかった。
ミカは、会計をし終えて、自動ドアの付近で立ち止まる
湊の肩に触れた。声を出さず、振り返る湊を見るとオシャレをしてない顔を見て違う人かと思った。大学に通う時の湊は化粧もせずに素顔のまま、肌が荒れてるところがモロ見えだった。バレたくない一心で、目をつぶった。
「あ、すいません。人違いでした」
ミカは肩に触れた手を離して持ち場に戻って行った。外に出て、息を吸い込んだあと、大きなため息をついた。
「マジで危なかった。今、バレそうだったよな」
「仕事する時はかなり厚化粧なんだな。ホステスと一緒じゃないか」
晃太は呆れて、湊の頬に触れる。そばかすとニキビがあるのが見えた。こういう時は肌が荒れてて良かったと安心した。
最近は、ホストクラブのナンバーワンのヒカルにやっかまれて、いざこざがあり、ストレスが半端なかった。
酒は飲めるが、いつも偏食で栄養バランスも良くない。ことなおさら、ストレスは大敵だ。
「腹もいっぱいになったし、大学戻ろうぜ」
「……俺もバイト始めるかな。親に内緒で」
「いいんじゃねーの。働いた方が小遣い増えるぞ」
ポンポンと晃太の肩を叩いた。
「お金よりも彼女が欲しいからさ。湊みたいに」
「彼女いないって。客だって言ってるだろ?」
「いざとなれば両手に花できるんだろ? 俺もモテたいの。サークルの先輩に勧められたバイトあるからさ、やってみっかな」
「なにそれ。ホストクラブじゃないだろ?」
「俺はトーク苦手だから! 何かアプリに会員登録すれば
できるんだってさ。セラピストだかなんだか」
晃太は、スマホをポチポチとタップしてログイン画面を開いた。
「風俗だろ、それ。お前、大丈夫なの?」
「俺、プロだから」
「な? お前、高1でデビューしてそれっきり彼女いないって
言ってなかった? プロってなんの?」
「1人組み手のプロ」
「はいはいはい。 冗談はよしこさんで勘弁してよ。
相手の女性に申し訳ないよ。」
「お前は俺の母ちゃんか? 大丈夫だって、俺、女子には優しいから」
「それどういう意味?」
湊は複雑な表情を浮かべて大学の校舎に向かった。晃太は湊人の後ろに着いていきつつもセラピストの会員登録を手早く済ませていた。湊の話を聞いて、何もしないでいる自分に劣等感を感じ始めた。オムライス専門レストランで働くミカは
(ニキビ多かったけど絶対アキラだと思うんだけどなぁ)
働きながらも湊のことを考えていた。