杏菜は、湊の横に並んで、夜の繁華街を歩いた。数時間前は、この世の終わりかというような気持ちでいっぱいだったのが、湊の隣だとネオンの光も綺麗に見えた。ボロボロになった制服から湊の私服に着替えて、少し彼氏感を味わっているのを
違和感を覚えた。初対面で服借りるのは、今までの出会いで経験がなかった。早歩きで進むスーツの後を追いかける。後ろの様子を見て、杏菜が着いてきているか確認する。湊はカルガモの親子のような気分になった。鼻でふっと笑った。その姿を見た杏菜は何で笑うのかと怒りを見せた。
「なんで笑うのよ!」
「小さいからな……」
杏菜は頭をポンポンと撫でられた。仕事で会う女性と比べて、お金の絡まない関係に何故かホッとする。こと尚更、高校生との絡みに新鮮さを感じた。湊に触られた頭を自分で確かめて、頬を赤らめた。
「てかさ、どこ住みな訳? 外出てきたけど」
「あ、忘れてた。G駅の歩いて15分のところ」
「ああ、そう。んじゃ、電車乗るぞ」
湊は両ポケットに両手を入れて、颯爽と歩く。湊の近くを女性の通行人たちが振り向いて、顔を確かめていた。頬を赤くしていた。確かに通りすがると良い匂いがした。ブランドものの香水だろう。左腕には高級時計を身につけている。通るたびに女の人たちは湊を確認している。何か魅力的なところがあるのだろうか。杏菜は疑問符を思い浮かべる。
「何してんだ?」
周りを気にしない湊は腕組みをして悩ましげの杏菜を見た。
「あー、すいません。今行きます」
横にいた若い女性たちが杏菜を睨む。
「あの子、彼女なのかな。アキラに彼女っていたっけ?」
「えー、知らないよ。彼女作らないって言ってなかった?」
ホストクラブの常連客だろうか源氏名を知っていた。 湊は、杏菜に聞かせまいと耳を塞いで、駅の出入り口まで誘導した。
「ちょっと、自分で歩けるわよ」
「あー、悪い悪い。段差があったから」
「その割には強引だったよ」
「そ、そうか? 時間、すぐ発車しそうだぞ。急げ」
湊はスマホを改札にかざして、ささっと移動した。バックの中にあった定期券を探した杏菜は慌てて、改札にかざした。
「ほら、行くぞ」
発車ベルが鳴り響く。湊は自然の流れで杏菜の手を引いた。拒否るのは失礼かと、ドキッと躊躇したが、湊の手を握った。ゴツゴツと骨骨して、細かった。でも、温かい。どれくらい振りに誰かと手を繋いだだろう。
このまま時間が長く続けばいいなと思った。杏菜ははにかんで、湊に着いていった。
どうにか、扉が閉まる前に車両に乗ることができた。本当の恋人同士になったみたいで嬉しく感じた。繋いでいた手がさらっとほどけた。
ホームから車両が発車すると、街のビルやお店が次々と窓に映し出された。自然と交際できたらどんなに嬉しいか。いっそのこと、湊が彼氏だったら良いのになと想像した。
「何見てんだよ」
「湊、彼女はいないの?」
「いねえーな。作る気もないけど、女は面倒くさいから」
「ふーん……」
吊り革を持って、真っ暗な景色が見える車両の窓を見ると隣同士の杏菜の姿と湊が鏡のように写っていた。それはまるで彼氏彼女のようだった。一緒にいることに抵抗を感じないのかと
疑問に思った。年上の彼氏の方が落ち着いてていいなとため息をつく。東の空には満月が照らされていた。ガタンゴトンと電車の音が響いていた。