ボロボロになった理由、湊には話せなかった。
人の彼氏に手を出して、集団レイプされたなんて口が裂けても言えなかった。杏菜は自分が悪いってわかっていた。
でも、相手の男も彼女がいるくせにほいほいついてくるのもおかしい。
___
「
街の信号待ちで青になった瞬間、大和は、颯爽と前に進む。杏菜は大和の腕を掴んだ。同じ高校の隣クラス。たまたま購買で買った一つのパンに手を出した時、お互いに譲り合った。それで、決着がつかない。購買のおばちゃんが声をかける。
「2人で半分こしたら? 大きいパンだし」
杏菜と大和が欲しがっていたのは最後に残った大きなウグイスパン。
初対面に近い2人は、そう言われて、固まった。くすっと笑って見つめ合う。少しは顔を知っていた。
「半分って言われてもなぁ」
「確かに……」
履いていたルーズソックスが下がってきた。くいっともちあげた。大和は、頭をかきむしる。袖口から出る白いセーターが 暖かそうだった。
「まぁ、良いなら。俺、おごるけど」
「え、悪いし」
「いいからいいから。おばちゃん、はい、300円」
「はいよ。ありがとねー」
大和は、パンを受け取って、杏菜を指でくいっとこっちへ来いと誘った。申し訳ない気持ちで後ろをついていく。中庭のベンチに座った。
「こんなもんでいい?」
「う、うん」
大きなパンを半分にした。
「タダでもらうのは申し訳ないから、はい、150円」
「え……。いらない」
「……はい!」
杏菜は意地でも渡す。
「そういう時はごちそうさまって受け取るんでしょう。いらないよ」
「……でも……」
「男に奢らせ!」
鬼のような顔になる大和。
「あ、はい。すいません。ごちそうさまです」
「それでよろしい!」
大和は早速、パンをひとくち頬張った。
「俺、2組の
顔、見たことあんだけど」
「え、あー、3組の
「へぇ、そう」
「全然、興味なさそう」
「別に……」
「え?」
「可愛いと思うけど……」
大和は学年で結構のモテる人だとは噂で聞いていた。彼女いるとかいないとかは知らなかった。そう言われると顔が赤くならない人はいないだろう。
「いや、そんな……。全然っすよ」
っと言いながら、耳まで赤くする。
「パン食べないの? お猿さん」
「た、食べますとも」
大和はくすっと笑って歯をにかっと見せた。
「杏菜って面白いな」
(呼び捨て?! そんな親密でしたかね、私たち?)
杏菜は心中、穏やかではなかった。大和は、心を鷲掴みした。付き合うという話になるまで、そこまで期間は長くなかったと思う。杏菜は、大和に会うのが、楽しみになって、休み時間に屋上までの階段の踊り場で会うことが習慣になった。知らなかったのだ。
その様子を杏菜の親友の大友寧々《おおともねね》が見て、彼女がいると注意しても、恋は盲目なのか、継続して、学校内でいちゃいちゃと過ごすのが当たり前だった。まさか、2番手だったなんて、危機に陥るまでわからない。彼女がいるって言っていたのにその彼女はどこにいるのか。大和本人には確認できなかったが、噂で聞いたら、部活動中に骨折して、ずっと入院していたため、その合間の一時しのぎに交際をしていた。
その彼女が学校に戻ってきた頃には、事件に巻き込まれた。
タイマンを張れない彼女は、家来のように取り巻きの3人の男子に指示を出した。
スマホのSNSを駆使して、大和浮気相手は、杏菜だと突き止めた。部活帰りの暗い通学路で突然、視界が暗くなった。黒い布を目の周りにかぶせられた。男子3人が杏菜の体を運んでいく。
誰か、運転する人がいたのだろう。ワンボックスカーに入れられた。ガヤガヤと何やら騒がしく、両手を縛られて、口をガムテープでおさえられた。
何も話すことはできない。耳には耳栓をされた。どこまで連れて行かれるんだろう。車の走る音とラジオが流れる音がうっすら聞こえるくらいだ。
どこかに到着した時には、またわっせわっせと体を運ばれた。耳が塞がって、話してる言葉が全然聞こえない。
鼻は塞がれていない。香水のような芳香剤の匂いがした。機械の音がする。どこに連れて行かれたんだろう。どさっと、投げられた。何だか柔らかいベッドだった。
杏菜はここはラブホテルだと気づいた。
口のガムテープと手と足を縛られたロープを外された。アイマスクを外したかったが、すぐに手を押さえれた。見ることはできないらしい。でも、なんだか危険が雰囲気がする。
すぐに逃げようと、体を動かそうとしたが、遅かった。足をさわさわと触られて、ジリジリと寄ってくる。男子は全部で3人いる気配がする。
何をされるんだ。顔を見れない。耳も聞こえない。でも、触れられたくないところを少しずつじらすように触られる。急に着ていた服も破られた。
もう、どうすることもできない。抵抗できない。男子の力は強い。出したくない声が出る。
1人目は、体を抑える人。
2人目は、ジリジリと極限までせまる人。
3人目は、最後まで事を済ます人。
きちんと役割分担している。
行為をしているときにポロッと耳栓が外れた。声が丸聞こえだ。
「
「は?やってるつーの。
楽でいいよな。1番良いところ、持ってくじゃんよ」
「
「……」
杏菜はその話を聞いて、同じ学校の同級生の名前だということに気づいた。しかも同じクラス。
どうして、この3人にレイプされなくちゃいけないのか。もう何が何だか分からなくなった。
最後まで1人で盛り上がって、事をなした龍之介は、ため息をついて、早々に着替えた。
他の2人は名残惜しそうだったが、逃げるように帰っていった。
3人が出て行ったと思ったら、申し訳ないと思った龍之介が戻ってきて、自動精算機の支払いを済ませていた。
ずっとアイマスクをしていてはっきりとどんな状況かわからなかったが、どうにか音で把握していた。
まるっきりの初めてではなかった杏菜は、無理やりするのはさすがに気持ちはよろしくなかった。最悪だ。
何が辛いって、制服がボロボロで部屋も異物で汚れている。
こんな仕打ちはもうこりごりだ。雑な扱いだし、突然すぎる。
ボロボロのまま、荷物を持ってラブホを出た。
通行人に姿を見られて、もう恥ずかし過ぎた。かなりの乱れようだったからだ。もう、家にも帰りたくない。
路地裏にあったゴミ箱の影に隠れた。地面にうなだれて、泣いた。大和と付き合わなければよかったと後悔した。
親友の言葉も無視し続けていた。こんなことが起きるなら 忠告にしっかりと耳を傾けておけばよかった。声を押し殺して静かに泣く。
カツカツと靴の音が聞こえた。
誰かがこちらに近づいてくる。
恐い。
逃げたい。
震えた足がびくともしない。
ぼんやりとした電灯の下に誰かがかがんだ。
「何してるの?」
飴玉の棒を口からタバコのように出して、真っ黒いスーツを着た青年が、女子高生の顔を覗いた。
一ノ瀬 湊がいた。