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第2話 救ってくれた


 杏菜あんなは、両膝を抱えて、顔を埋めた。冷静さを取り戻した。1LDKの殺風景な部屋に案内されてリビングに敷かれたふわふわのラグマットの上に座る。


 モノトーンでまとめられたインテリアと小難しいそうな本がたくさん入っていた本棚があった。漢字が多くて何があるのか

分からない。下の方には少しのエロ漫画が見えた。こう言う人も読むだなとニヤニヤとした。


 ライトノベルの本も綺麗に並べられている。



 金髪にスーツの風貌には想像できない部屋だった。白いテーブルに温かいマグカップが置かれた。紅茶の香りが漂う。



 「服、今用意するわ。とりあえず、それ飲んでて」


 クローゼットの中のハンガーを次々動かして良さげな服を選んでいた。杏菜はありがたく入れてもらった温かい紅茶を飲んだ。ぽかぽかと温まった。ふぅーとため息をつく。


「はい、これ。メンズ用だけど着れると思うから」


 ハンガーにかけたままの大きめのグレートレーナーとカーキ色のズボンを渡された。ウエストの紐を微調整してきゅっとしめた。隣の部屋を借りて着替えた。



「着れた?」

「はい! 大丈夫です」

「そう、良かった」


 自分用の紅茶をマグカップに入れている。


「あ、あ……」

「ん? なに?」


 湊というその人の肌はとても白かった。

 鼻筋も通っていて、少し堀が深く、外人にも見えなくない。

 金髪の髪が少しプリンかかっているのが気になった。


 「ありがとうってこと?」


 紅茶を飲んでから、杏菜の顔を見て、言いたいことを察する。杏菜は黙って頷いた。


「いいよ。俺も元気もらえたから」

「え……」

「あと、未成年は……きちんとお家に帰りましょうねー。それ飲んだら、家まで送るよ。かなり遅いだろ、時間」


 高級そうなキラキラとした時計を眺めたミナト。杏菜は寂しそうな顔をした。ポンポンと、軽く頭を撫でられた。ムスクの香水のにおいがした。



「俺、今から仕事だからさ」

「す、すいません。忙しいのに……」


 見透かされたようで恥ずかしくなる。



「いや、大丈夫」

「理由、聞かないんですか?」

「何の?」

「えっと、ぼろぼろになった理由……」

「何? 言いたいの? アウトプット? また泣くんじゃない?」

「あー……んじゃ、言いません。今は笑っていたいから」

「だろ? やな事は忘れろって。俺も忘れられたから」

「え、やな事?」

「え、あー、いいや。でも、名前くらいは知っておきたいかな」

「あ、はい。杏菜です! 庄子杏菜しょうじあんなです」


 嘘をついた。本名は晒さなかった。


「ふーん、杏菜ね。分かった。覚えておく」

「ん!」


 杏菜は、湊の顔を覗く。名前を知りたかった。その様子を察して、湊人はため息をつく。


「はいはい、俺の名前ね。俺は、一ノいちのせみなと

「湊!」

「呼び捨てすんなよ。これでも、年上だぞ」

「えー何歳上? 私、17歳だけど?」

「……それは内緒。」

「うわ、ずるい。私は言ったのに。秘密にするなら、呼び捨てでも何でもいいよね」

 呆れて両手を上げる。


「別に……好きにすれば。俺、こだわりないから。上下関係に」

「ふーん。湊、湊、湊…とととと」


 ご機嫌になる杏菜は、ソファにゴロンと横になって、ソファにかかっていた毛布を体にかけた。


「って、おい! 未成年! ウチに帰るぞ」

「えーーー、泊まってもいいじゃん」

「だめ」

「湊がその気ならいつでもいいよ!」

「どんだけの尻軽女だよ。やだよ。絶対やだ」

「えーーー……。男子たるものあてがわれたものは食すのが当たり前でしょう!?」

「どこの世界だよ。必ず食すみたいな。そんなルール、俺にはない。ただ、捕まりたくないだけ。未成年に手は絶対出さない」


「そっちこそ、どんなルールよ。いいおじさんが。まさか童貞だったりして?」

「はいはい。そんな話良いから。外出て」


 湊は杏菜の首根っこを猫のようにつかんで外に出した。出かける準備をして玄関の鍵を閉めた。


「ケチー。外でもいいよ?」

「バカか?! 公然わいせつでなおさらつかまるわ。ほら、行くぞ」

「金髪の癖に〜」

「金髪関係ないだろ!?」


 怒りの額の筋がなかなか消えない湊だった。ツブツとお経のようにケチと何度も呟く杏菜だった。カンカンカンと外階段の音が響いた。地面にいたスズメの3羽が電線に向かって飛んでいく。

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