「常識的に考えてもう無理だって気づけへんのかな? ひょっとして腕力家サマはドアホか?」
ニッコリ微笑んで飛馬先輩は、頭の上でくるくる指先を廻してそんなことを言って来た。
え? え?
そりゃ、あんなに素敵な男の人の恋人になるの、難しいのは分かってるけど……
夢を見ることすら、馬鹿にされるってどういうこと……?
「……私の夢は、この国から
言いながら、天野先輩のこめかみにビキビキと青筋が立っていく。
ああ……
「そんな私の夢を潰しておいて、私の兄にアタックするとか、何なの? あなたひょっとしてサイコパス? こみなんとかさん? ケーキが切れない子?」
その目には……とても強い恨みの色が籠っていた。
わ……私、天野先輩にメチャメチャ嫌われている……!
「告げ口なんて酷いです!」
春香ちゃんが先輩2人を非難してくれた。
その気遣いは嬉しかった……。
けれど……
「国生さん、あなた弟が居たわよね」
天野先輩がそう穏やかな声で言う。
それを受けて春香ちゃんは
「居るけど何なんですか! まさか私の弟に手を出すつもりなら……!」
言いながら六道ホンを取り出す春香ちゃん。
返答次第では変身して実力で制圧するぞ。
そういう意思表示。とても厳しい表情だ。
だけど……
「そんなことしないわよ。……ちょっと想像してみたら良いわ」
冷たい目で天野先輩は
「あなたの理想の条件を備えた王子様のような男の人が居たとして、その男の人があなたを口説いて来た」
こう言ってから、一呼吸おいて
「……でも、もしその男の人が、あなたの弟を一方的にボッコボコに殴り回した過去があったらどうなのかな? ……あなた、そんな男性の求愛を受け入れるの?」
そんなことを言った瞬間。
春香ちゃん、目を見開き、ブルブル震え。
「……しません。それが発覚した時点で関係を切ると思います」
そう答え
「……でしょう?」
満足げに、天野先輩。
「ようやく分かったようやな。祈里の理想社会の到来を阻んだ時点でアンタの恋は終わったんや。諦めて次の恋を探すんやな」
ニヤニヤしながら飛馬先輩。
「……妖魔神帝フレアーの件は、人類のために協力したけど、逆に言えばそれだけよ。勘違いしないでよね。じゃあ」
言って天野先輩は踵を返す。
二度とウチに近づくな。
そう言い残して、去って行った……。
……終わった。
私の初恋……!
私は震えた。
気が付くとボロボロと泣いていた。
そんな私を見て、春香ちゃんは
「大丈夫だよ花蓮ちゃん! 私がついてるから! まだ次の恋があるよ!」
そう言って私の手を握ってくれた。
私は
「ゴメン春香ちゃん……思い切り泣いていいかなぁ……?」
とても耐えられそうにない。
そう、訊くと。
春香ちゃんは黙って頷いてくれた。
だから……
「う~~ううう……あんまりだ……HEEEEYYYY あァァァんまりだァァアァ AHYYY AHYYY AHY WHOOOOOOOHHHHHHHH!! せ~かい~を救った~のにぃぃぃ!」
私は思い切り泣いた。
明日から笑って立つために。
<了>