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第100話 この世界の仕組み

「……何故だ?」


 お腹の穴を修復しながら。

 フレアーは呪詛の声を吐いた。


 何故……?


 私はフレアーの言葉をまともに聞く気は無かったけど。

 その声に、聞き流せない何かを感じた。


 フレアーは続けた。


「何故お前たちは魂を我らにくれぬのだッ!」


 ……捧げぬ、じゃない。

 くれぬ、と言い出した。


 前までは上から目線。


 でも……


 ここまで完膚なきまでにやられて、もはやその立ち位置を維持できなくなったのか。


 動詞が変わった。


 言い方にも、非難の響き。

 被差別階級の弱者……


 そんな感じの響きがあった。


「妾たちは、知的生物の魂を喰らわないと生きていけない! およそ1万年程度しか持たぬ! 妾たちに餓死しろと申すのか貴様らはッ!」


 恨み、悔しさ、呪い……


 様々な負の感情が乗った顔。


 ……1万年……


 人間の尺度なら「充分だろ、ボケ」だけど。


 こいつらにとっては1週間くらいの感覚なのかもしれない。


 けれど……


「あなたたちの糧になる筋合いが人間に無い以上、餓死しろとしか言えないね」


 そこはハッキリ断言する。

 その言葉にフレアーは


「……き……」


 わなわなと震えて


「貴様らの魂は、どのみち輪廻転生の果てに消滅する運命では無いか!! まさか知らぬのか六道プリンセスーッ!?」


 発狂した表情で、叫ぶようにそんなことを言ったんだ。


 え……と思ったけど。


 そういえば、聞いたことがある。


 キリスト教の最終目的と、仏教の最終目的。


 キリスト教は、神様との約束を守り抜くことによって、死後天国に入れて貰って永遠に幸せの中で存在し続ける許可を貰う。

 それが最終目的。


 反対に仏教は、魂に輪廻転生を繰り返させ、その過程で様々な人生を経験させて。

 そうすることによって自己の魂を磨き上げていき、最後は大きな魂の一部になってその自我を消してしまうのが目的。


 反対なんだよね。

 キリスト教と仏教は。


 その最後の目的が。


 ……で。どうも。


 この妖魔神帝フレアーの言い分を考慮すると。

 この世界の仕組みは、仏教が正しいってことなのか。


 そうだったんだ……

 これ、宗教家の人には聞かせられない話だな……


 まあ、今はそんなことどうでもいい。


 フレアーの言ったこと。

 その意味……


 フレアーはこう言いたいのか。


 最後は解脱に達して、その存在が完全に消えるのに、何故自分たちから糧を取り上げてしまうのだという呪詛。

 どうせ消えてしまうんだ。自分たちに少しくらい分けてくれてもいいじゃないか。

 そういうことか。


 それに対して……


 私は思った。


 最後に消えることの是非は私には分かんない。

 だってただのJCだもの。


 だけど……


 私は思った。

 春香ちゃんと友達になって、一緒に山籠もりに行って。

 一緒に羆を殺して捌いて……。


 公開処刑の会場に見物に行って、死刑囚の首が飛ぶのを楽しみながら一緒にかき氷を食べて……


 生首サッカーを観戦して手に汗を握って……


 鉄身五身を習得して、沖縄に旅行に行って……


 米軍基地を一緒に壊滅させて。


 シンヤさんに優しくしてもらってドキドキして、好きになって。

 ロードワークのたびにコンビニに立ち寄って、砂糖水を14キロ買って、お店の外でバケツに入れて飲み干した……


 そんな楽しい時間を過ごした。

 青春の1ページ。


 それに……意味がないの?


 そんなわけ……絶対に無い!


 だから


「様々な人生を送って、最後満足して消えるのと、お前たちの餌になって無意味に消えるのとが同じわけ無いだろッ! この薄汚い害虫がッ! とっととこの世界から消滅しろーッ!」


 一喝した。


 私の言葉を聞き、フレアーの表情が憎悪一色に変貌する。


「おのれええええええ! 許さぬぞおおおお!」


 怨嗟、拒絶、否定、憎悪……


 この静かな宇宙空間に、数多くの負の感情が満ちる。


 そこに……


『……我の助言は不要だったみたいだね。花蓮お姉ちゃん』


 この宇宙空間に、ワンピース姿の7才の美少女。


 ……私の義妹の閻魔優子が、私の隣に現れた。

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