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第84話 いざ東京へ

「お母さん私、明日東京に行くから!」


 私は優子の演説を見て、決意新たにお母さんに断りを入れた。

 するとお母さんはお茶を啜ってお煎餅に手を伸ばしながら


「東京に行くの? 何のために?」


 お母さん、特に何も無さそうな顔で。

 お母さん……


「お母さんは今の映像を見て何も思わないの!?」


「ウチはお父さんもお母さんも仕事してるから関係のないことだし、これで怠け者が減るなら良いことじゃない」


 サラダ煎餅を齧りながら。


「だいたい、今の世の中怠け者を甘やかし過ぎなのよ」


 意味不明の理由で働けないと主張して無職に甘んじ、苦しくなったら国を訴える。

 お母さん、そんな訴訟が来るたびにいつも原告を断頭台に送ってやりたい衝動に駆られているわ。


 そうとてもいい笑顔で言って。


 テレビ画面の中で優子が爆弾やサブマシンガンを装備した暴徒に襲われて。

 それを全て受け切り、その上で一方的に返り討ちにしている様を目にして


 うふふふふっ!

 ざまぁ!

 クズは抗議と文句だけはいっちょ前なのよね!


 メッサ愉しそうに笑っていた。


 お母さん……


 まあ、気持ちは分かるけどさ。


 でも、腕力家の人間が国の政治に関わる行為をしちゃ駄目じゃん。

 お父さんだって、反社を出した格闘技道場を二度と活動できないように潰してしまうくらいで。

 言論統制はしてないよね?


 そう思って私がお母さんに視線を向けていると


「……まあ、心情的には放置したい気持ちで一杯だけど」


 お母さんは自分の鞄から財布を取り出して、1万円札を4枚を引っ張り出して。

 私に差し出し


「ほら、これで行ってきなさい。東京に」


「……良いの?」


 4万円は重い……

 それぐらい私にだって分かる。


 お母さんは


「姉妹間でモヤるなら行ってきなさい。やりたいことをやればいいわ」


 そう言って、またテレビに戻っていった。


「おつりで帰りに雛鳥饅頭を買ってきてちょうだいね」


 そんなことを言いながら。




 私は最初、お年玉を使って東京に行こうと思っていたので。

 この展開は嬉しかった。


 いや、助かった。


 お母さんの心遣いに感謝して私は


 東京までの交通費を調べて。

 往復で約3万2000円……

 新幹線を使うからね。


 そして雛鳥饅頭が3000円……


 差し引き、5000円おつり……

 これ、お小遣いにしていいのかなぁ?


 訊いてみたいけど、ダメとか言われるとショックだし。


 ……黙って着服して、返しなさいって言われたら返そうかな。

 言われなければそのまま私のお小遣い……




 そして次の日。


 阿比須駅前で春香ちゃんと落ち合った。


「じゃあ行こう。東京に」


 そうして。

 私たち2人は、学校の制服姿で電車に乗り込み。

 東京目指して出発したのだった……。

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