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第81話 実践しよう!

 私たちは鉄身五身の常駐化に到達した。

 死の恐怖に耐えて鉄身五身を維持することが、寝てる間も鉄身五身を維持する精神状態に目覚めるに至らせたんだ。


 それをお父さんに報告すると。


「よくやった。偉いぞ」


 ……お父さんが褒めてくれた。

 嬉しかった。


 これまで女の子だからと踏み込まなかった阿比須真拳の深淵。

 それに到達できた自分が誇らしかった。


 自然と笑みが零れる。


 お父さんの大きな手が私の頭を撫でる。

 ……春香ちゃんの前だったから少し恥ずかしかったけど、それ以上に嬉しかった。


「国生さんもよく頑張ったね。これでもう、国生さんは交通事故で死ぬことは無いよ」


「そうなんですか! じゃあもう、私は赤信号は気にしなくて良いんですね!」


 春香ちゃんは満面の笑み。

 これでもう、春香ちゃんは異世界転生をすることは無いんだ。


 私もだけど。


 今の私なら、夕食後にアイスを食べたくなる季節に、夜間外出したとしても。

 何も恐れることは無いんだ。


 あのときとは違う!


 そうして


 私と春香ちゃん、2人で喜んでいたら。


 お父さんに


「……お祝いと、修行の成果を試しに、行って来るといい」


 そう言われて。


 飛行機のチケットを2枚、渡されたんだよね。


 ……沖縄行きの飛行機のチケットを。




「沖縄だー!」


「海蛇と山羊を食べるぞ!」


 県民SHOWという番組でやってた名物を愉しみたい。


 飛行機を降りた後。


 空港に降り立つ私たち。


 沖縄は観光が主な産業で。

 売りは海水浴に適した綺麗な海。

 そして本土ではあまりお目にかからない珍しい食べ物。


 一番メジャーで食べられているのは、実は豚なんだけど。

 観光客としては、海蛇だとか。山羊だとか。

 そういうものを食べたい。


「まず、海蛇を食べようよ」


 春香ちゃんがガイドブックを見ながら言った。

 山羊より海蛇。


 それは分かる。


 山羊の肉は本土でも流通が無いわけじゃないしね。


 私たちは沖縄の街を歩きながら話す。


「どこに行けば海蛇料理を食べられるの?」


「……鬼岩城ってお店が一番有名みたい」


 鬼岩城かぁ……




『食事処・鬼岩城』


 巨人の姿を象った店舗。

 鬼の岩のお城。


 なるほど……確かに鬼岩城だ。


 私たちはそこで、海蛇のスープ……イラブ―汁をいただいた。


 味は……なんか、魚のスープみたいだった。

 多分カツオ出汁。

 和食でもありそうな気がする。


「んー、味は普通だね花蓮ちゃん」


 同じテーブルの向かいの席で、同じようにイラブ―汁を啜っている春香ちゃんが正直な感想を口にした。

 それについては私も同感だった。


 もっと、食べたことの無い味を想像していたのに。


 ただ……

 滋養のある薬膳料理的な性格がある料理だそうで。


 なんだかエネルギーがつくような感覚があった。




 食事を終え。

 私たちは水着に着替えて海に出た。


 沖縄に来たら海に行かないとね。


 私は白いワンピース水着。

 春香ちゃんはフリルのついた青いワンピース水着。


 で、2人で海で遊ぼうと思っていたら。


 そこで見つけてしまった……


 ごった返す観光客に混じって


 ……シンヤさんがいた。


 なんでいるの?




「シンヤさんこんにちは」


 挨拶しに行く。

 出会ってしまったんだし。


 挨拶は大事。


 シンヤさんは黒いブーメランパンツみたいな水着で、一緒に来てる誰かとさっきまで話し込んでいた。


 そんなシンヤさんの会話の一段落を狙って私は話し掛けたのだけど。


「あれ? 閻魔さん?」


 シンヤさんも驚いていた。

 まあ、沖縄まで来て、知り合いに会うとは思わないよね。


「観光?」


「はい」


 肯定しておく。

 それだけじゃないんだけどね。


 しかし……水着姿のシンヤさん。

 とってもエッチだった。


 お腹は板チョコ状態で。

 胸の筋肉は、巨乳雄っぱい状態では無いんだけど。

 普通雄っぱいくらいはあった。


 ……ステキ。


「……花蓮ちゃん」


 そこに春香ちゃんの冷静なツッコミ。

 我に返り、私は涎を拭いて慌ててシンヤさんに会話を向けた。


「シンヤさんも観光ですか?」


 そう、訊くと


「いや、コンビニで販売する新商品の原材料の確保をしに来たんだ」


 シンヤさんは真面目な顔でそう教えてくれた。

 新商品……


「それは何ですか?」


 流れで訊ねると


「海蛇だよ」


 サラッと。

 自分の目的を話してくれたよ。




 そして私は今、潜水している。

 シンヤさん曰く、海蛇は海の底にいるらしく。


 捕まえたいなら、素潜りしか無いんだって。


 ……いやね。

 海蛇を捕まえますって言ってしまったんだよ。


 だから潜ってる。

 しかし……


(これ、本当に効果あるのかな?)


 海蛇狩りに向けて。

 渡されたのはこれだけ。


 赤地に白い文字の刺繡の袋。


 通称「お守り」


 水中銃も、空気砲も要らないらしい。

 このお守りだけあったら十分なんだとか。


 どういうことだろう……?


 うーん、まあそれはそれとして。


 久々に泳いだ海の底。

 とっても気持ちがいいもんね。

 お腹のイラブ―汁が重いけど。

 海が広いよ心が弾む。


 桃色珊瑚が手を振って、私の泳ぎを眺めていたよ。


 ……そう、私が潜水するものとしての正直な感想を、心で呟きながら泳いでいると。


 ディラーディラー!


 妙な鳴き声が海の底に響いた。

 そして一瞬遅れて、岩陰からニョロリとそいつが姿を現す。


 それは……


 手足の無い生き物で。

 地上で地を這っている生き物「蛇」に近い。

 色は水色。


 違うのは、その5メートル以上ある大きさと……


 全身を覆う……装甲のある表皮。

 まるで侍の甲冑みたいな外皮。


 ……これが「海蛇」


 これは水中銃の銛なんて、受け付けるわけがない。

 納得した。


 ……阿比須真拳は通じるだろうか?

 気にはなったけど、私は言われた通りにする。


 ゴア! ゴア! ゴア!


 獲物を見つけ、興奮しているのか。

 奇妙な鳴き声をあげて食らいついてきた。

 そんな海蛇に。


 ……私はお守りを押し付けた。


 その瞬間だった。


 ヒャアアアアアアア!


 人間に似た悲鳴をあげ、海蛇は一気に脱力する。


 ……死んだのだ。


 海蛇は、お守りで狩れる。

 最初デマかと思ったけど。


 どうやら本当だったらしい。

 変な生き物……。




 シンヤさんに捕まえて来た海蛇を引き渡した。

 するとシンヤさんは「ありがとう。海蛇が捕まえられなくて、困っていたんだよ」

 そう、爽やかな笑みで応えてくれた。


 嬉しい。


 シンヤさんの役に立てた。

 ニコニコだ。


 私は最高に良い気分になった。


 そしてその気分のまま


「こんにちはー、ハロー!」


「よろしくおねがいしまーす!」


 私たちは制服に着替えて、沖縄の米軍基地に乗り込んだんだ。

 守衛さんもこっちを見たし、通りすがりの白人や黒人の軍人さんも私たちを見る。


 緊張するなぁ……


 ……ちょっと、米軍基地を単身素手で壊滅させに来たんだけど。


 上手く出来るかなぁ……?

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