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第80話 ここからは、私たちのステージよ!

 ぶおおお、と顔に凄まじい風圧を感じた。


 落下する私。

 自由落下。

 パラシュートも何も無し。


 そのスピードがぐんぐん速くなっていく。


 視界を流れていく風景。

 岸壁。

 岩肌。


 そして終わりの見えない谷底。


 その光景に、頭の中にこれまでの人生が流れていく。


 生まれた日に、病院ではじめてお母さんと対面した日。

 幼稚園に上がって、スカート捲りをしてきた男の子を殴り倒した日。

 小学校で、下級生にいじめをしていた上級生をコンクリートに叩きつけた日。

 そして中学生になり……


 ヘルプリンセスとして義妹に挑み、左腕をへし折られた日。


 これは……走馬灯。


 やっちゃったよ。

 そんな言葉が頭の中に行き過ぎる。


 全てが、ゆっくりに見えてくる。


 これは……死に際の集中力の習得。

 その入り口。


 だけど……


 普通の格闘士なら、この境地を全力で活用して、減速する方向で動くんだろう。


 でも、私は鉄身五身の完成がその目的。


 命を拾う方法はたった1つしかない。


 鉄身五身をこの状況で維持し、落下しても死ななければ。

 そのとき、常駐化の基礎が出来る。


 お父さんの言葉によると、そうらしい。

 鉄身五身が出来なければ即死亡。

 その状況が、常駐化を生むんだとか。


 だから


 ……絶対に、成功させるよ。


 そのとき……


「花蓮ちゃん」


 声が、降って来た。


 見る。


 すると、上方から春香ちゃんが落下速度で追いついて来た。

 どうやって私に落下速度で上回ったの?


 その謎はすぐに解けた。


 ……春香ちゃんは、落下中にビーストプリンセスに変身し、ケンタウロスモードになっていたのだ。


 ケンタウロスモードになると、体重が500キロに届くくらいに増加する。

 そのせいで追いついて来たんだ。


 重いものの方がはよ落ちる落下の法則。

 ゆで理論……。


 私に追いついたとき。

 春香ちゃんは変身を解き。

 私たちの落下速度は同じになる。


「春香ちゃん、決断したんだね」


 私は春香ちゃんに語り掛ける。

 春香ちゃんは頷いて


「私も、鉄身五身の常駐化がしたいから」


 そしてこうも続けた。


「同じ六道シックスプリンセスとして、花蓮ちゃんと一緒に行くためには必要だもの」


 一緒に行くために必要……?

 鉄身五身ができないと、私たちは一緒には行けないの?

 いや、戦いはそうかもしれない。けれど……

 それだけが、友達の条件なの?


 そう思ったから、訊いた。


 一緒に行けないと友達じゃ無いのか? って。


 そしたら……


「物理的距離が、必ずしも友達の近さじゃないのかもしれない……でも」


 春香ちゃんは私を見つめて、はっきりと言ってくれた。


「それでも、私は花蓮ちゃんと同じものを隣で一緒に見ていける人間になりたいの」


 春香ちゃん……!


 私たちは落下しながら。

 その手を握り合う。


 そして……


 私たちは落下した。


 谷底に流れる、深い川に。


 水飛沫。衝撃。


 どのくらいの距離を落ちたのか分からない。

 でも、おそらく。


 死ぬ高さなのは間違いなかったはずだ。


 プハッ。


 私は水面に顔を出した。

 水を飲まない様に気を付けていたけど、ちょっとだけ、ヤバかった。


 ……私は生きてた。

 鉄身五身を維持できなければ、間違いなく死ぬ状況を生き延びた。


 春香ちゃんは……?


 春香ちゃんは大丈夫だろうか?


 私はそのことを考えて、周囲を見回す。

 いない……


 まさか……?


 そのときだ


「プハァ!」


 水面に。

 春香ちゃんが顔を出したんだ。


 ……眼鏡が無くなっていたけど。

 多分、衝撃で吹っ飛んだんだね。


「春香ちゃん!」


 私は感激し、思わず泳いで春香ちゃんに近づき、抱きしめた。

 春香ちゃんは


「……これで、ここからは私たちのステージだね!」


 そう、明るい声で宣言したんだ。

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