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第78話 鉄身五身を習得するには

 阿比須真拳奥義・鉄身五身を習得したい?

 そんなの……!


「無理だよ」


 そう、答えるしかない。

 私は1年修行して身に付けた。

 まともにやるには、それぐらい時間が要るんだよ。


 すぐに……特に、優子との史上最大の姉妹喧嘩に間に合わせる形で、春香ちゃんが鉄身五身を習得するのは無理がある。


 一応、無茶な方法で方法が無いわけではないけど……


 それは……


「……私ね。花蓮ちゃんと同じところに居たいんだ」


 そこで。

 春香ちゃんは絞り出すような声で言ったんだ。


 私と同じところに居たい。

 私の隣に居たい。


 ……そのためには。


 鉄身五身を習得するしかない。


 春香ちゃん……

 私のためにそこまで……!


 嬉しかった。


 嬉しかったけど……


 地道な修行抜きで鉄身五身を身に付けるには、闘気を込めた使い手の一撃を喰らうしか無いんだよ。

 それこそ「死んでしまってもまあいいかな」くらいのレベルの。


 そんなの……


 そう思って、優子との戦いを思い返したら


 ……あったわ。


 そういや、春香ちゃんは優子におもくそ闘気を込めて蹴っ飛ばされて、足を折られたんだよね。

 じゃあ、いけるんじゃないの?




「春香ちゃん、少し堪えるけどいい?」


 私はピッチングマシーンを引っ張り出してきて、春香ちゃんの前に立つ。

 私は鉄球を使ったけど、春香ちゃんはまずピッチングマシーンで。


「……いいよ!」


 鉄柱に後ろ手で縛り付けられた春香ちゃん。

 その顔には怯えは無かったけど……


 足は少し、震えていた。


(……春香ちゃん!)


 それを見ると私の気持ちは萎えそうになったけど。

 ここで応えないと春香ちゃんとの友情を裏切ってしまうような気がした。


(これは避けられないこと……)


 私はそう自分に言い聞かせ、ピッチングマシーンのスイッチを……入れた。




 ピッチングマシーンから、時速200キロのボールが何発も撃ち出される。

 当然硬球だ。


 それが全て、春香ちゃんに直撃する。


 ドン ドン ドン……


「ふぐうっ!」


 ビキビキッ!


 硬球が春香ちゃんの身体に食い込んでいく。

 辛い。


 大切な友達なのに。


 顔面は狙わない。

 ボディに集中した。

 顔に痣が残ったら酷いもの。

 それに眼鏡掛けてるし。


 ボディ……特に腹部を狙った。


 服で隠れるからここがベストだよね? 春香ちゃん……!


「阿比須真拳奥義! 鉄身五身!」


 硬球で打ちのめされながら。

 春香ちゃんは奥義の技シャウトを続けた。


 だが……とてもじゃないがそれは鉄身五身じゃない。

 ただの気合いだ。


「阿比須真拳奥義! 鉄身五身!」


 だけど。

 春香ちゃんは続けた。

 すごい精神力だ。


 ……友達になったときは、色々弱い子だったのに。

 春香ちゃんは、とても強くなった。


 すごい……


 私は友達に尊敬の気持ちを抱いた。


 そして……


 何シャウトしただろうか。


 あるときから


「阿比須真拳奥義! 鉄身五身!」


 ピッチングマシンから撃ち出される200キロの硬球を、春香ちゃんは平然と受け止められるようになってきた。

 無論、ボディで。


 ああ……


 私は驚きと感動で、泣きそうになった。


 春香ちゃんが……鉄身五身を習得した!


 そんな私を見て、春香ちゃんはニヤリと不敵な笑みを浮かべたのだった。

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