1日目。
私はどうしようかと思ったんだけど……
「家畜の餌の番をするんだよね……?」
春香ちゃんの言葉で、やるべきことを思い出した。
家畜の餌の番……
それは何をするべきか。
うん……
思い切って、問題の小屋を開けて中に入ったら。
とりあえず、見えて来た。
ゴキブリがさ、ビッシリといるんだけど。
家畜の餌の山にも……その、ビッシリと。
家畜の餌の番……
この観点から見たら、やることは決まってるよね。
「うおおおおおお!」
私は自分を鼓舞するために雄叫びをあげた。
そして突っ込む。
家畜の餌の山にたかるゴキブリ。
私はそれはGだと思わないことにした。
Gを摘まんで、剥がして、投げる。
摘まんで、剥がして、投げる。
摘まむ、剥がす、投げる。
「花蓮ちゃん……!」
春香ちゃんは何か思うところがあったのか。
彼女も
「おおおおおおおお!」
雄叫びをあげて。
突っ込んで来た。
2日目。
Gを殺さないで剥がして捨てるという正確な作業をぶっ続けで行う修行。
この修行の神髄は闘気のコントロールの技術向上にあるんだろうか?
春香ちゃんも同じことを一生懸命していた。
そうこうしているうちに……Gに慣れて来た。
3日目。
「師匠って初速がすごく速いよね」
春香ちゃんの言葉。
そうなんだよね。
私たちが動くときは、その動きが最高速度に到達する前にいくらか時間が要るんだけどさ。
師匠は違うんだよね。
いきなりから速いんだよ。
すごいよね。師匠。
それを延々師匠を捕まえて剥がして投げるを繰り返すうちに、気づいてしまったんだ。
真似したい。
4日目。
「じょうじ!(春香ちゃん!)」
じょうじ(私はその日、師匠の身体の秘密について気づいたので、春香ちゃんに話したんだ)
「じょうじ?(なに? 花蓮ちゃん?)」
「じょうじじょうじ……!(師匠の身体は……液体なんだよ。筋肉で構成されていないんだ……!)」
じょうじ(師匠の亡骸を偶然見つけて、その身体がガチガチの筋肉で構成されていないことに気づいてしまったんだ……その外骨格の中身は……液体だったんだよ)
じょうじ(そこで私は、師匠の素早さの本質を掴んだ気がしたんだ。個体では無く、液体……究極の脱力……)
5日目。
じょうじ(そして私たちは、師匠の身体の秘密を徹底的に模倣し。その動きの本質を掴むに至ったんだ。
究極の脱力。まるで水の様な……。
それを24時間365日続ける。
そして……私たちはゼロから最高速度に到達する能力を獲得した。
そんなとき。
お父さんが覗きに来たんだ)
「じょうじ!(お父さん!)」
「じょうじ!(おじさん! 私たち師匠から学びました!)」
「……学べたようだな。良かったよ」
じょうじ……(お父さんは嬉しそうにしきりに頷いていた。その後2日かけて私たちはゴキブリ語を抜き、次の修行へと移った……)