「……ビーストプリンセスを囮にして、勝つなんて。花蓮お姉ちゃん非情だね」
私はそんなゲヘナプリンセスの言葉に。
私の胸が重くなった。
なったんだけど
「非情じゃない!」
そこに、春香ちゃんが言い放った。
怯えを含まない強い口調で。
キッとゲヘナプリンセスを睨みながら。
「花蓮ちゃんは、私の最終手段に意味合いを持たせようと、あの短い間に考えて、実行してくれたんだ! それのどこが非情だ! 訂正して!」
……春香ちゃんの友情が、私の心に染み入って来る。
嬉しかった。
とてつもなく、嬉しかった。
そして
そんな春香ちゃんの言葉にゲヘナプリンセスは
「……そうだね。もう戦う気は無いし。挑発は意味はないし。我、訂正するし謝る。ゴメンナサイ。花蓮お姉ちゃんのお友達」
立ち上がり、ゲヘナプリンセスは私たちに頭を下げた。
……え?
混乱する私たちを他所に、ゲヘナプリンセスは
「まあ、傷を治してきてよお姉ちゃんたち。……我を止めたいのであれば、いつでも受けて立つから……花蓮お姉ちゃんの義妹として」
ニヤリ、と笑い。
そのまま悠然と去って行った。
その後。
私と春香ちゃんは病院送りになった。
一緒に診察を受けて、お医者さんの手当てを受けた。
入院にはならなかったんだけど……
私は全治1か月。
春香ちゃんは全治2か月。
私は腕。
春香ちゃんは太腿。
私は腕を吊り。
春香ちゃんは足に添え木と包帯。
あと松葉杖。
……負けてしまった。
はじめての敗北。
それは、咲さんも同じだったみたいで。
阿比須の技の使い手として、他人の果し合いに横槍を入れることに抵抗があり、私と春香ちゃんの戦いを見守ってたらしいけど。
ゲヘナプリンセスには、自分でも勝つのは難しい……というか、勝てるかどうか分からないと思ったらしい。
特に、萬田君がただでは済まないことになる予感があるから
……今後、咲さんはゲヘナプリンセスが何をしても放置するって宣言した。
その気持ちは分かるかもしれない。
少しだけ。
私だって、戦うことでシンヤさんが酷い目に遭うかもしれないなら、相手が絶対悪で無いのであれば「放置する」って選択肢を取るかもしれない。
放置したって……
国会前で「破産の自由化」を叫ぶダメ人間。
国会議員で「パチスロの資産運用化」法案を通そうとするクズ議員。
女の借金を理由に婚約破棄したら、高額の慰謝料を男に吹っ掛けて良いと発言する識者。
そんなのが酷い目に遭うだけだし。
正直、少し痛い目に遭って反省すればいいって気持ち、無いことも無いしね。
……ゲヘナプリンセス……つまり優子はあの後、私の家を家出して。
東京に行って、宣言通り国会前を血に染めて、国会議事堂に入って、議会を血に染めた。
そして……
ゲヘナプリンセスは……閻魔優子は4人目の腕力家に認定された。
『閻魔優子さん(7)がこの度、4人目の腕力家認定をされました。世界の皆さん、この顔にピンときたら絶対に逆らってはいけません』
緊急ニュースでそんなのが流れて。
7才とか言いながら、帯刀しセーラー服を身に付けた黒髪ロングの超絶美少女JCの姿で撮った記念写真……ピースまでしている……が全国放送された。
「……責任を感じるよ。姉として」
春香ちゃんと、病院廊下の長椅子に腰掛けながら。
私はそう、独り言のように呟いた。
それに対し、春香ちゃんは
「私たち、無敵だと思ってたけど……井の中の蛙だったんだね……」
その言葉に、私は頷くしか無かった。
ちょっとビール瓶が斬れるとか、ちょっと貫手がコンクリートに突き刺せるとかで、自分はそこそこ戦えるって、妄想してしまった。
そんなの、誰でも頑張ったらできることに違いないのに。
「それに……」
春香ちゃんは続けた。
辛そうに。
それは……
「まさか、デウスプリンセスとヒューマンプリンセスが、ゲヘナプリンセスの軍門に下るなんて……」
悲しかった。
まさか天野先輩と飛馬先輩が敵に転ぶなんて。
現在、天野先輩と飛馬先輩は、優子が殺したダメ人間たちを蘇生させ、もう2度とふざけた真似をするなと諭して回っている。
次にゲヘナプリンセスの怒りを買ったら、もう蘇生は無い、って。
……恐怖政治だ。
ダメ人間限定の。
ダメ人間たちが何も言えなくなる……!
問題だと思ったから、真意を訊ねるために先輩たちに六道ホンで電話を掛けたら
「ちょうどいいと思うのよね。いい機会だから世直しよ。自由と自分勝手をはき違えた手合い多いし」
「ウチは基本、祈里の味方やし」
……全く問題行動だと考えていない様だった。
なんてことなんだろう。
……私たち、これからどうすれば?