グラトニープリンセスに変身した萬田君は、初代様に空中回し蹴りを叩き込む。
「プリンセスアバドーンレッグクラッシュ!」
本来なら妖魔獣の手足を一撃で破壊する必殺キック。
だけど初代様は
「
……素手でそれをつかみ取って止めた。
萬田君は驚愕で目を見開く。
位置的に、蹴りに最大威力が乗っているところでそれをやったんだ。
……そこから察せられる実力差。
そして初代様はそのまま萬田君を投げ飛ばした。
技術も何もなく、膂力で。
「グラトニープリンセスーッ!」
私の叫び。
野球場の屋台の中に叩きつけられ、機器をブチ壊す萬田君。
たこ焼き焼き機をぶっ飛ばし、たい焼きを散乱させる。
「……可愛いだけで戦えると思ったら大間違いじゃ」
そう、厳しい言葉を萬田君に叩きつけた。
屋台の残骸の中で痛みに悶える萬田君は、とてもエッチだった。
露出している太腿だとか。眉根を寄らせている顔だとか。
……あ、咲さんも見惚れている。
だけど……
「可愛いだけじゃないのが、ボーイズの約束なんだよ……」
なんと萬田君は、そこから立ち上がる。
ダメージはほとんどないようだ。
……少しだけ、初代様は驚く。
「ほほぅ。面白いのう……どういうカラクリじゃ?」
「
初代様の問いに、力強く萬田君。
どうも、肥満した豚の特殊能力である「打撃を無効化する身体」をその身に宿らせるワザらしい。
……つまり、萬田君を打撃では倒せない。
痛みはあるみたいだけど
「思う存分僕を殴って気持ちよくなれば良いんじゃないかなッッ!」
そしてこの誘い。
恋人を護るために身を投げ出す。
私は萬田君の愛を見せつけられ、そのエッチさに興奮してしまった。
初代様もまんざらでは無いみたいで
「ふむ……それは魅力的な提案……」
そう言いかけたところで
「すげえ! すげえぜ! 相手にならねえじゃねえか! 最高だよオマエ!」
ノロジーはとても愉快そうに笑った。
自分たちを一方的に倒して来た相手がやられている。
ボコボコにやられている私たちが嬉しくてたまらないらしい。
……お前に負けてるわけじゃない!
腹が立って、そんな言葉が胸に湧いたけど。
それは敗者が口にする言葉じゃないと思ったから、私は噛み殺した。
だけど
「……オヌシ、我の勝利がそれほど嬉しいか?」
初代様。
彼女はノロジーを見上げながらそう言ったんだ。
それに対しノロジーは
「当たり前だ! 今まで俺様たちの邪魔を散々してきてくれた邪魔っけなクズどもだからな!」
そう、嬉々として答えた。
それを聞き初代様は……
「……なるほど。我が技の伝承者たちは、このような
そう独り言ちて、顎に手を当て、思案し
そしてこう言ったんだ。
「阿比須の創始者としては、このままの状態は沽券に関わるか」
そう口にして。
彼女はノロジーを見上げた。
ノロジーは愉しそうに笑って、初代様の視線に気づいていない。
その……目的のために標的を討ち取る決意をした、死神の目に。
そして
「阿比須族滅流奥義!
その奥義の叫びと同時に……
ふおおお、と息を吸い込む初代様。
「へ……?」
それが、ノロジーの最期の言葉になった。
彼の姿は掻き消え、初代様の口の中に黄金色のエネルギーとして吸い込まれていく。
全て吸い込むのに、2秒かからなかった。
「……酷い味じゃ。過去に吸い込んだ怨霊たちに、ここまで酷い味の者はおらんかったぞ」
吸い込んだ初代様は、口を拭い、私たちに向き直る。
「……これで我は誰の使い魔でもない。我は我。安心するがいい」
私はわけが分からなかった。
だから
「な……何がしたいんですか?」
その目的を、訊く。
彼女は
「花蓮お姉ちゃんよ……さきほども言ったが……我は、この国の歪みを正したいのじゃ」
そう、真顔でいう。
そして続けた。
この国がどれほど歪んでいるかという事を。
国会前では「破産の認定を無審査無制限にしろ
国会では、人気取りで「パチスロを資産運用のひとつとして認め、救済措置を」などという法案出そうとする三流政治家。
テレビでは「子供が居ない程度の理由で、離婚時に女性に養育費を認めないこの国の制度はおかしい」と主張する文化人。
うん……確かにそれはおかしいけど、だからといって暴の力でそれを変えようなんて!
そんなの暴力革命じゃん! (ピー)だよ!
だから私は叫んだ。
「そんなの駄目だ! 初代様! ……いや、優子!」
私は初代様を……優子を否定する。
すると、優子は悲しそうな顔を一瞬して
「……花蓮お姉ちゃんには分かって欲しかったのじゃ……。悲しい……」
そう呟いた後。
厳しい目に戻り
「……花蓮お姉ちゃんたちと我は平行線……ならば、それに相応しい存在にならねばなるまい」
そう宣言し、優子は手を高く掲げた。
「来い! ゲヘナホン!」
その手の中に。
まるで光を発しない、暗黒のガラケーが出現する。
!!
私たちの頭の中に出現する感嘆符。
……なんでそれを知ってるの……?
ひょっとして、ノロジーを取り込んだから、私たちの情報も全部渡ってしまったってことなの!?
そんな混乱を無視し、彼女は続けた。
「花蓮お姉ちゃんたちは、六道プリンセス……仏教由来のプリンセスじゃ。……ならば我は、きりすと教由来のプリンセスが妥当じゃな。対立概念であるゆえ」
言いながら、暗黒のガラケー・ゲヘナホンをシュッと上下にスライドさせ、入力キーに変身コードを親指で打ち込んでいく。
すると
『Standing by』
電子音声が流れる。
ただし……その音声は酷く歪んで禍々しい声だった。
「変身!
それを受け、ゲヘナホンを高く掲げて優子は叫ぶ。
それと同時に
『Complete』
禍々しい電子音声。
その声が響いた瞬間。
優子から暗黒の波動が発生し。
周囲のものを吹き飛ばしながら変身を開始する。
その全裸の姿に、次々に纏われていく暗黒の衣装。
その姿は。甲冑を着た女武者をイメージしたドレス。
ブレストアーマーのような胸部甲冑に、肩当。
小手に、具足。
その色は……暗黒。
波動が消えた後。
優子は自分の唇を人差し指で撫で、朱を引いた。
戦士の嗜み……死してなお桜色。
そして宣言する。
昂りを押さえられない笑顔で。
「我は邪鬼滅殺の使徒、ゲヘナプリンセスじゃ!」