私の前に、白ワンピの幼女……私の義妹……閻魔優子が立っていたんだ。

　表情は見えない。

　後姿だけ。

　だけど……

　その背中に、私は大きなものを感じた。

　まるでお父さんのような……！

　阿比須真理愛妖魔獣は

　……何故か、激しく動揺していた。

　天敵に出会ってしまったように。

　攻撃の手が完全に止まる。

　そしてそんな妖魔獣に、優子は言った。

「……まだ愚かしいあまりにも身の程知らずの、不敬な野望を捨てておらんのか……恥を知れ」

　恐ろしく覇気の籠った声だった。

　小２の女の子の声じゃない。

　まるで……戦国武将のようだった。

「私はあなたをこの世に呼び戻したのですよッ！？　そんな私に、何かあっても良いのではないですか！？　私への感謝は……そして私に手を貸す意志は無いのですか！？　何故に！？」

　非難の鳴き声。

　優子に対して、理不尽を非難する鳴き声を向ける。

　だけど

「ぬかせ。……我は別に頼んではおらんし、仮に頼んだ末の話であったとしても、我は帝に弓は引かぬ」

　全くなんの効果もあげていない。

　優子が登場した途端、阿比須真理愛妖魔獣は激しく動揺して、自分の働きをアピールしはじめた。

　ここまで私はあなたのために働いたのですよ、って。

　だけど優子には全く何も通じていない……。

　その様子を見ることになり、私は考える。

　阿比須真理愛妖魔獣の顔にある感情は……怯えだ。

　そこで思い出す。彼女の鳴き声にあった「あの方」って言う存在について。

　もしかして、優子がその……？

「う……ウオオオオオオ！」

　私が事態を完全に飲み込めず、グルグル考えていたら。

　ただ、成り行きを見守っていたら。

　阿比須真理愛妖魔獣は、雄叫びをあげ。

　追い詰められて、撃って出た。

　怒涛の攻撃を開始したんだ。

　９本の尾を全て使って襲う。

　対して優子は阿比須真理愛妖魔獣の攻撃を真顔で躱していく

　火炎の尾、雷撃の尾、酸の尾、顎アギトの尾……

　で、刃物の尾が襲ってきたとき。

　優子は火炎の尾を回避した直後で

　まともに顔面に喰らってしまう。

「貰った！」

　目を潰した。

　そう思ったのか。

　阿比須真理愛妖魔獣は勝利を確信した鳴き声をあげ

　尻尾を戻して、追撃で勝利を掴むため、突っ込んでいった。

　鋭い爪が生えた両手を構えつつ。

　それで優子を引き裂くつもりなのか。

　だけど

　優子は口元で不敵な笑みを浮かべて。

　阿比須真理愛妖魔獣を正面から迎え撃つ。

　そして優子は、スッと手刀を大上段に構えたんだ。

　何を……？

　そう思った瞬間に

　優子はこう叫んだんだ。

「阿比須族滅流奥義！　眼窩分断！」

　それを迫りくる阿比須真理愛妖魔獣に叩き込む！

　奥義の威力はまるで気刃のように阿比須真理愛妖魔獣の眉間から顎先、顎先から鳩尾を通り、臀部まで突き抜けた。

　そして。

　次の瞬間、センターラインで阿比須真理愛妖魔獣の身体が縦に２つに分断する！

「アアアアーッ！」

　阿比須真理愛妖魔獣の最期の叫び。

　それは２つして。

　その直後、爆散した。

「……優子……あなた一体……？」

　爆炎の中に立つ、ワンピの美幼女。

　その表情は厳しくて。

　まるで、武神のようだった。