「阿比須真拳奥義! 下腿骨開放骨折!」
六道プリンセスに変身した私は、そのまま阿比須真理愛妖魔獣の足を払う蹴りを繰り出す。
阿比須真理愛妖魔獣はそれを避けながら
「阿比須真拳……オマエも阿比須を奪った者だったな!」
そんな鳴き声をあげた。
この阿比須真理愛妖魔獣……阿比須真拳を知ってるの!?
「阿比須真拳を知ってるの!?」
私は両脇をがら空きにした、強襲の構えを取りつつ、その鳴き声の内容を訊く。
阿比須真理愛妖魔獣は表情を一変させ、憎悪の籠った表情でこう吐き捨てるように鳴いた。
「当然だ!」
その怨嗟の響き。
自分以外の阿比須への憎しみ……!
そこまで、自分たちが失ったものへの未練が強いのか……
動揺する私。
そんな私に阿比須真理愛妖魔獣は踏み込んで技を繰り出した。
「死ぬがいい盗人め!」
阿比須真拳で言うところの奥義・鎖骨粉砕……!
阿比須真理愛妖魔獣の袈裟掛けの手刀斬り。
それはまっすぐに私の肩口に吸い込まれ……
私は動揺のあまり、鉄身五身の発動が遅れてしまった。
まずい……!
このままでは、この殺人級の威力の手刀を、まともに喰らってしまう……!
だが、そのときだった。
「プリンセス・スパイダーウェブ!」
寸前で、春香ちゃん……ビーストプリンセスの指先から発射される蜘蛛の糸。
それが阿比須真理愛妖魔獣の手刀を絡め取って押さえ込んだんだ。
「あなた、大学教授だったんですよね……?」
鉄をも凌ぐ強度の蜘蛛の糸で押さえ込みつつ、春香ちゃんは語り掛けた。
「十分な地位があるのに、何故それ以上を求めるんですか!?」
春香ちゃんの問いに、彼女は
「本来我らはこの国の頂点に立つ存在だった! 相応しい扱いを求めただけだッ!」
……この人!
そんなことに何の意味があるの!?
そんな願いをする時間があるなら、他人のため、社会のために何ができるのかを考えなよ!
後ろばかり振り返り、前を向かない。
……現在の阿比須家がどんな悲惨な状況なのか知らないけど、あなた相当優秀だよね!?
だって大学教授だったんでしょ!?
何でそんなすごい地位があったのに、全部犯罪でパァにしたの……?
だから私は
「あなた意味の無いことに囚われ過ぎて人生を台無しにしたんだね! 阿比須の創始者もきっと同じことを言うよ!」
はっきりと阿比須真理愛妖魔獣に私は言い放った。
でも、そんな私の言葉は彼女の逆鱗に触れたみたいで
「黙れ盗人め!」
阿比須真理愛妖魔獣は尾を操り、ビーストプリンセスの蜘蛛糸を切断した。
その尾は、刃物に覆われたもので……刃物の尾と言う名が適当な気がする。
そして私に魔獣の姿勢で跳躍。強襲してくる。
その姿は完全に魔獣だった。
そこから私は覇気を感じたけど。
私は気圧されなかった。
だから
「阿比須真拳奥義! 頸椎損傷!」
私は奥義の蹴りを廻し蹴りで繰り出した。
クリーンヒット。
手応えを感じたよ。
私の蹴りで、阿比須真理愛妖魔獣の頸椎が真横にへし折れた。
だけど
彼女は頸椎がへし折れた影響でグラウンドに突っ込み、倒れ伏しながら
即座に
両手でへし折れた首を、位置ずれ修正する感じで直して、立ち上がって再び襲って来た。
「殺してくれるわッ! この阿比須を盗んだ罪人め!」
9本の尾の数本を伸ばし、襲ってくる。
その尾は、火炎、雷撃、酸……
それぞれ、別の能力を持っていた。
私はそれを避けながら
「盗んでない! 阿比須真拳は平和の拳! 阿比須族滅流から生まれた、皆を幸せにする活人拳なんだよッ!」
自分のことしか考えていないこの阿比須真理愛妖魔獣に、届いて欲しいと思いながら私は。
彼女の攻撃を受け、捌きながら阿比須真拳の理念を説き続けた。
国家を守るために起きた阿比須族滅流。
そしてそこから生まれた、国家の枝葉である牙無き人々を守るために生まれた阿比須真拳。
この2つの武術は公共の精神……それが根底にあるんだ。
それをこの人は全く分かっていない!
自分を憐れんで、私たちから阿比須を取り上げることばかり考えて……
私たちが弱い人を守るんだ!
弱い人たちが、幸せな日常を生きることを守るんだ。
そう……今日のようなお祭りに出て、親しい人と笑顔になれる日常。
それを護る。
そんな言葉は一言も出ていない!
「自分の在り方を反省してッ!」
私は本心からそんな言葉を叩きつける。
だけど、阿比須真理愛妖魔獣にそんな言葉は届かず
「何をだッ!? それはお前らだろうがッ!」
9本の尾のひとつ……何か禍々しい妖気を発する尾で、私を打ち据えようとする。
そこに
私の前に、回り込んでくる影があった。
……まるで私を護るみたいに。