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第64話 自業自得だッ!

 阿比須あびす真理愛まりあ……?

 阿比須あびす夕子前ゆうこぜんの子孫……?


 突然だったけど、なんとなく何をこの女が言ったのか理解は出来た。


 多分、阿比須家から阿修羅の家……つまり咲さんの家に阿比須族滅流継承者の地位が移ったのは、懲罰か何かだったんだよ。

 で、その後阿比須一族は本名で生活できなくなって、偽名を名乗って生きて来た。


 それが阿鼻素あびもと


 で、この女はそれが我慢できず、何かした。

 明確な根拠がないけど、この女の態度からの想像。


 そしたら


 ずい、と私の前に咲さんが出て来た。


「……ここまでの会話は聞こえていたから、大体事情は把握している。その上で言ってあげる」


 厳しい顔で。


「貴女の怒りは逆恨みだよ! 阿比須家から阿修羅家に、阿比須族滅流の継承権が移ったのは、全部お前たちが悪い!」


 強く、言い放ったんだ。


 ……やっぱり。


 なんとなくの予想が当たっていた。

 そんな私を横目で見て、咲さんは


「……ちょうどいいわ。あなたも聞いておくべきよ。阿比須の使い手として、阿比須の技の歴史の流れを……」


 そう前置きをして。


 語ってくれたよ……。



 阿比須族滅流が生まれたのは、鎌倉時代末期。

 元寇を経験した当時の幕府が、武術の達人の女傑・阿比須夕子前に命じて編み出させたこの世の最終武術。

 たった1人でも族滅を実行可能してしまうということを念頭に置いて作った武術。


 ……ここは前も聞いた。


 阿比須族滅流の特筆事項は、やはり鉄身五身。全身くまなく鋼鉄の強度にし、不意打ちだろうが正面からだろうが、一切の攻撃を無効化する鉄壁の防御技。

 その上で、高威力の攻撃技で確実に殺戮対象を絶命させていく。

 まさに完全無欠の最終武術。


 その後、幕府が倒されて別の幕府が立っても残り続け、代々阿比須家の長子がその技を伝承していった。


 ……のだが。


 戦国時代に入って、阿比須家の長子が「自分が帝を討って、新たなる帝になる」などと言い出した。


 この国では決して許されない発言。

 本来は長子の下で阿比須族滅流の師範のひとりとして、阿比須族滅流を支えるはずだった阿修羅家の長子・阿修羅王之介が


「帝に牙を剥いたな。この国の臣下として見過ごせぬ」


 と、思い上がった本家を討った。

 そして以後は伝承者は阿比須家から、阿修羅家に移動した。


 ……やっぱりそうなんだ。

 私の知らなかった阿比須の歴史……。


「だから……貴女の家から伝承者が移ったのは完全に自業自得。逆賊が吼えるな!」


 咲さんの声には、全く迷いがなかった。

 そこには阿比須族滅流の伝承者の責任感と誇りが籠っていた。


「黙れ盗人がぁ!」


 真理愛がその咲さんの一喝を受け、猛攻を開始する。


 超高速で繰り出される手刀、突き、貫手、直蹴り回し蹴り。

 繰り出しながら、叫び続ける。


「私たちは本来はこの国の頂点にいるべき存在ッ! なのにお前たちに破れたせいでッ! 名を名乗ることも許されず、闇の一族ッ! その屈辱ッ!」


 呪いと憎悪。それが乗った重い一撃ばかりだ。

 それを的確に受ける咲さん。


 真理愛の技量は相当なものだったけど、咲さんに対応できないわけではなかった。

 それに対し


「それを逆転するためにッ! あの方を何とか復活させてもッ! クソッ、クソオオオオオオ!!」


 真理愛は攻撃を繰り返しながら、憎悪と怒りと……悲しみを見せる。

 憎悪と怒りを燃やしつつも、涙があった。


 この女は、自分の境遇が許せなかった。

 自分のせいではない環境。そこから来る屈辱的な事実。

 それがどうしても……耐えられなかったのか。


 私は同情はしなかったけど……悲しい、とは思った。


 そのときだった。


「……お前のような人間を妖魔獣の素体に使うべきなのかもしれない。単純な人殺しでは無い人殺し……!」


 ……知っている男の声がした。

 この声は……


 ……ノロジー!?

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