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第62話 ノマカプに挟まる百合の末路

「ゴォォォル! ゲームセット!」


 赤チームが男の生首サッカーボールを敵ゴールネットに叩き込んだ。

 10分間の手に汗を握る攻防の結果だ。


「あああ、もうしゃあねえな」


「1万円! 痛いけど負けたしな!」


 汗だくの白チームの男性たちが悔しそうにそう言い。


 財布を取り出し、諭吉さんを1枚引っ張り出して、赤チームの皆に渡していく。

 その様子は爽やかだった。


 試合が終わればノーサイド。

 それがその、金銭の授受に現れている気がする。


 ゴールネットを揺らした生首は職員さんがやって来て、阿比須町指定のゴミ袋に放り込んだ。

 多分燃えるゴミに出して、ゴミと一緒に焼くんだろうね。

 まあ、どうでもいいけど。


 身体の方はすでに回収済み。

 既に内臓は臓器移植用に転売され、肉は豚の餌。

 骨は砕いてアスファルトに混ぜて道路の一部にされている。


 死刑に処される罪を犯したのだから、その全存在を社会のために還元する。

 そこまでやって、彼らの罪は赦されるんだよね。


 ご愁傷様。


 さあ、次だ次。


「次の処刑を行う」


「いやああああああ!」


 職員さんが暴れる死刑囚の女をセンターサークルに引きずり出して来る。

 両腕を掴んでズルズルと。


 女は叫ぶ。


「何でよ!? 百合に挟まる男は死刑なんでしょう!? 私は女だから無罪よぉ!」


 ……はあ?


 この法律の本質を理解して無いよね。

 無罪なわけないじゃん。


 男女平等なんだし。


 そう思って呆れていたら


「ザッケンナコラー!」


「完成した尊いカプに挟まろう、仲を裂こうとする行為が許されんのだ! そこに男も女も無い!」


「伝説の92かテメーはよー!」


 観客から怒りの声が飛ぶ。


「まったくもってその通りだよね。罪の重さは変わらないよ」


 春香ちゃんが融けたかき氷を飲みながら厳しい表情。

 同感だ。


 私たちの糾弾する声に、女は顔をくしゃくしゃにして泣き出す。

 うっわ、殺したい。


 泣きながら、女は言った。


「私の恋心はどうなるというの……? センパイを中学のときデブだった高校デビュー男なんかに取られるのは許せなかった……人を愛することが罪なはずがない!」


 ……噴飯モノ。

 当のセンパイ、ノンケでしょうが。

 その時点でお前は見守る愛に移行しなきゃいけないのに、そうしなかった。


 そんなのは愛じゃない。

 ただの獣欲だよ!


 だから私は


「罪だよー! お前の愛は侵略行為! この戦術鬼ー!」


 大声で言ってやった。

 すると


「黙れえええええ!! 呪ってやる! この世の全てを呪ってやるううううう!!」


 女、発狂。

 目を剥き唾を飛ばしつつ、絶叫する。


 すると


 その場は一瞬静まり返り。


 次の瞬間、大爆笑。


 笑いに包まれる処刑場。


「何が、呪ってやるー、だ」


「やれるものならやってみろ」


「出来るというなら、首を刎ねられた後、50メートル首なしで走って見せろ」


 ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ


 誰も、嗤うばかりで取り合わない。

 女はそんな笑い声を受け


「……50メートル……50メートル……」


 顔を真っ青にしてブツブツ呟く。


 咲さんはそんな女の様子を気にしないで。

 刀に水を掛けて斬首の準備に入った。


 そして


 刀を振り上げ……


 振り下ろし、斬首。


 女の首が宙を舞い


 センターサークル内に落ちた瞬間、またサッカーがはじまるんだけど


 そのとき


 女の身体の方が、拘束を振り解き、走り出したんだ。


 血液を首から吹き出しながら。


 そのまま……うん。

 50メートルほど走って、倒れた。


 ……驚愕で場が停止したけど。


 数秒後


「へえ」


「やるじゃん」


 ……賞賛の声がポツリ、ポツリ。


 なかなかの意志力だよね。

 私もちょっと見直したよ。


 ホントに首なしで50メートル走るなんてさ。


 もっとも……


 死の瞬間に呪いよりも走ることに集中し過ぎて。

 恨みを残すことはできなかっただろうけどね。


 まあ、だから私が言ったんだけどさ。


 その辺、観客も理解してて。

 その後の生首サッカーを応援する声には何の陰りも無かったよ。


 ……さあ、次だ!

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