私たちが病院の玄関のあるエントランスまで駆け戻ると、そこでは手足の無い貧相なおじさんが高速で病院の床を這いまわり。
シャッと
口からカッターナイフを吐き出して、周囲の人を攻撃していた。
「キャーッ! 警備員呼んでー!」
「誰かあの達磨をなんとかして!」
逃げ惑う人々。
えっと
「あの人が問題の人ですか?」
手足が無いあたり、おそらくそうなんだろうけど。
ストーカー
私が咲さんに訊ねると
「いや、顔なんて覚えてないし。でも」
状況的にそうじゃないかな。
ここで暴れる理由のある達磨さんはあの男性しかいないでしょ。
……そっか。
咲さんの言葉に、私は
「あれ、何で動けているんでしょうか?」
次の疑問を口にした。
手足も無いのにあのスピードで這うなんて。
理屈が分からない。
すると
「多分腹筋を動かすことで這ってるんだと思う。手足の無い人間がそこに辿り着く場合、たまにあるから」
その場合、セットで喉に仕込んだ凶器を吐き出すのもあるあるよ。
……そっか(2回目)
「あの看護師と刀を持った女子高生を出せーっ!」
手足も無いのに大暴れするおじさん。
私は
「おじさん! 求婚したいほど好きになった相手が既婚者だったことで激怒するなんて本当の愛じゃないと思う! 気持ち悪いよ!」
おじさんを諭すためにそう言い放った。
けれど
「ウルサイメスガキ! 何で俺は女にありつけない!? 世の中間違ってる! 間違ってるーっ!」
訊く耳持たずに暴れまわる。
そして私はおじさんの「女にありつけない」って言い方にゾッとする。
巡り合えない、じゃないんだ。
このおじさんにとって、女性は獲得物……アイテムか何かなんだ。
ご飯とかオヤツと一緒。
……この人、サイテーだ……。
なので私は「おじさんなんか女の人は誰も好きにならないよ!」って言おうとした。
そのときだった。
「……ククク。良い暴れっぷりだ」
その場の空間が歪み。
……金髪短髪の、ボディビルダーみたいな男性が現れたんだ。
その場に現れた金髪男性。
すごい筋肉の人。マッチョマン。
その肉体を、白いタンクトップ衣装と、同色のブーメランパンツで見せつけている。
この出現方法は……
「あなた……妖魔神の手の者ね?」
私の問いに
「いかにも。俺様はノロジー……」
そう言って視線を手足の無いおじさんに向ける。
そしてこう言ったんだ。
「あの男は俺様がすでに妖魔獣に変えている。説得は無駄だぞ」
……そうだったんだ。
だからいきなり、手足の無い人間が辿り着く境地にいきなり開眼してたんだ……!
だったら、
そう思った。
けれど……
服のポケットにしまっている六道ホンに手を伸ばしたとき、気づいた。
(監視カメラ……!)
そう。
監視カメラの存在に。
あるかもしれないよ。
暴漢対策で。
どうしよう……?
ここで変身したら正体がバレるかもしれない……!
そう思ったとき。
いつの間にか咲さんと萬田くんの姿が消えていた。
え? と思ったとき。
「変身!
「変身!
……女子トイレの方から、咲さんの声が聞こえて来たんだ……!
そして男子トイレからは萬田くんの声……!
え、これって……?
驚きのあまり、私は動けなかった。
咲さんも
あと、萬田くんも……?
オトコノコだよね……?
国生さんの顔を見ると、国生さんも同じみたいで。
メチャクチャ驚いている。
「ザギ、ドモ、スバナイ、オグレドゥア」
そしてそこに、どこからともなく蝶の羽根と狼犬の顔を持つ妖精が現れた。
ただ、活舌がすごく悪くて何を言ってるのか分からなかったけど。