目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第22話 阿比須族滅流継承者

 教えてもらった診察室前まで行くと、ロングヘアで綺麗めのブレザー女子高生と。

 その女子高生と手を繋いでいるカワイイ小学生の男の子に出会った。


 これから帰るところ。


 そんな雰囲気だった。


 私は違ったら申し訳ないなと思ったけど

 この女子高生、帯刀してたんだよね。


 つまり武芸者。


 この病院に、同時に2人も女子高生武芸者なんてそうそういないでしょ。


 だから


「あの、看護師さんを助けた女子高生の人ですか?」


 いきなり訊いた。

 すると


「えっと……そうだけど?」


 ……肯定された。


 おお。

 なんで逮捕されてないのかとか。

 阿比須なんちゃらって何なのよとか。


 色々訊きたいことあるけど。

 それは後回しにしよう。


 まずはお礼。


「友達のお母さんを助けてくれてありがとうございました」


「私の母を助けてくれて感謝です」


 私たちは頭を下げた。

 気になっていることを頭の片隅に封印しつつ。


 ……そう。


 私は、阿比須真拳の使い手で。

 阿比須真拳は江戸時代に起きた活人拳。


 その阿比須真拳以外に阿比須の名を冠しているものを私は知らない。

 この町の名前の阿比須町を除いて。


 だからすごく気になっていた。

 何か関係あるの? って。


 なので


「いやあ、クズの気配を感じたから突っ込んだだけだから」


 何だか照れ臭そうに頬を掻く。


「それなんですけど」


 そこで私は話を切り出す。


「私、阿比須真拳の使い手なんですけど、何か関係あるんでしょうか? 阿比須の名前のある武術の使い手なんですよね?」


 私はドキドキしていた。

 一体どんな答えが返ってくるんだろうか?


 すると


「阿比須真拳? ああ、阿比須族滅流の門弟がここに来て新たに起こした別流派ね。良くは知らないけどその使い手なんだ? アナタ」


 え……阿比須真拳ってオリジナル流派じゃ無かったの?

 私はショックを受けてしまう。


 なので私は


「阿比須真拳の使い手が起こした別流派じゃ無いんですか?」


 阿比須族滅流が、と言う意味で。

 すると


「違うわね。逆よ」


 なんかこの女子高生の目がキツくなった。

 だけど私は


「阿比須真拳を操る者は天に選ばれし者。その威をもってこの世に美と秩序をもたらしめよ」


 思わず開祖の言葉を言ってしまった。

 こんなにもオリジナリティに溢れているんだよ、的な意味で。

 だけど


「開祖がそんなことを言ってるの? ヤバいわね」


 開祖の閻魔散四郎えんまさんしろうの言葉をヤバいって言われた!


 さらにショックを受ける私。

 そんな私を他所に、この女子高生の人は頭を掻いて面倒そうにしながら


 こう言ったんだ。


「良いわ教えてあげる。阿比須族滅流はね……」


 この人が言うには、阿比須族滅流はその発祥は鎌倉時代に遡るとのこと。

 鎌倉末期、元寇で多大な被害を受けたと考えた鎌倉幕府は、武術の達人の女傑「阿比須夕子前あびすゆうこぜん」に命じ、単身で族滅……罪人自身のみならずその一族にも死罪に及ぼさせること……を達成できる武術の開発をさせた。


 それが阿比須族滅流。


 元々、罪人を一族郎党皆殺しにする、処刑のための武術だったんだ。

 それを私のご先祖である閻魔散四郎が江戸時代に「平和のための拳法・阿比須真拳」に改良。

 そしてそれを、私の家が今に伝えている……


 そういうことだったんだ……


 なので私は


「ええと、ということはあなたは阿比須夕子前の血筋の方ですか?」


 なんとなく継承者の雰囲気を感じたのでそう訊いたんだけど。

 返って来た言葉は


「違うわ」


 否定で……


「私の名前は阿修羅咲あしゅらさき。阿比須の血の者では無いわ。でも、第24代の阿比須族滅流の継承者よ」


 継承者……やっぱりそうなんだ。

 少し興奮してしまう私。


「本物の古流武術の継承者に出会えて嬉しいです!」


 ハイテンションになる。

 握手も求めた。


 そしてそのままもうひとつの疑問についても訊ねた。


「警察にはなんて言ったんですが? 咲さんが斬った相手は間違いなくゴミカスだと思いましたけど」


 うん。

 それは間違いない。


 愛の搾取とか意味不明。

 自分の思い通りにならなかったからと、女性の顔を切ろうとするなんてクズとしか言えないよ。


 でも、それを一方的に斬り捨てる。

 それが罪になるかならないかは別問題。

 この人、どうやってそこをクリアしたんだろうか?


 それに関して。

 続く言葉が衝撃的だった。


 この人、ちょっと困ったようにこう言ったんだ。


「私、腕力家なの」


 なん……だと?


 このひと、世界に3人しかいない腕力家の1人なの!?

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?