「やだ」
「何で!?」
バキと名乗った馬面の妖精。
契約というキーワードを口にした。
それは危ない。
「……死にそうなのを良いことに、私の魂を抜くつもりでしょう?」
「しないよ! 僕はそんな非道な真似はしない!」
バキは泡食っている。
その理由は
「くだらない難癖つけてごねないで! 本当に死ぬよ!? 早く契約するんだ!」
バキは必死だった。
曰く、私に死なれると戦士候補生が減ってしまうこと。
曰く、私の余命はあと数分だということ。
曰く……彼と契約すれば、プリンセスになる前の負傷は全てキャンセルされ、新しい肉体に転生することができること。
新しい肉体は、絶対に病気にならないし、新陳代謝が一生落ちないということ。
……なんか後半が怪しい気がする。
だけど……
ゴホッ、ゴホッと咳き込む。
……血が出た。
もう、あと数秒かな……
死にたくないな……
高校生になりたいし、女子大生にもなりたい。
仕事もしてみたいし、結婚だってしたい。
……物事、100%保証されたことなんて、無いんだよね。
そこに、私はこの
どっかで「えいや」は要るんだよ。
よし……
えいや!
「……契約するよ。私を
意を決して、口にした。
その言葉。
バキが、それを受けて
「おっけー! その言葉、助かるよ!」
その言葉と同時に。
バキが輝き。
そして私は光になり。
暴走する自動車の下から抜け出していく。
同時に、急ブレーキを掛ける暴走自動車。
光になった私は……人気のない田舎道路の真ん中に、出現していた。
さっきまで自動車に引き摺られていた傷は全て癒え……
衣装も変わっていた。
……黒を基調とした、へそだしルックの魔法少女衣装……。
ところどころに、髑髏の意匠が入ってる。
なんか、禍々しい。
そこに
「……変身完了おめでとう。ヘルプリンセス」
私の傍に、バキが蝶の羽根で羽ばたきながら佇み、私にそう呼び掛けた。
ヘルプリンセス……それが私の
バキは続けた。
「キミは六道の、地獄道の力を受け継いだ
八大地獄の力……!
なんかよく分からないけど、すごい気がする!
「で、キミがその力を使ってやることは……」
バキのその説明に連動するように。
目の前で停車している、さっきまで私を引き摺っていた自動車が変形していく。
普通の白い乗用車だったのに。
車体に無数の棘が生え、肥大化。
似ても似つかないものに変わっていく。
それは……
乗るためじゃない。
人間を殺傷するための車……!
「あれは……?」
私がそう、バキに訊ねると
「あれは妖魔獣。……妖魔神が地上に遣わした、人殺しを素体にして作り出した怪物だよ!」
妖魔……獣?
事態が飲み込みきれず、戸惑う私。
そんな私に……
その肥大化した殺人自動車が、急発進。
そしてターンして、私めがけて突っ込んで来た!