古い神社の境内で、巫女姿の幼い女の子が、赤い匣を持って立っている。
匣に描かれているのは、鮮血のように真っ赤な椿の花だ。重なるようにたくさん描かれている。
風が吹いたのか、女の子の髪が右へふわりと揺れた。映像をスローモーションにして見ているかのように、ゆっくりとした動きだ。
子供たちが、巫女姿の女の子の前に駆け寄り、横一列に並ぶ。手に持っているのは、匣に描かれているのと同じ、赤い椿の花だ。
かん かん かんなのカミさんは——。
歌が聞こえてきた。わらべうたのような親しみのある旋律。子供たちは歌いながら、小さな巫女が持っている匣に、赤い椿の花を入れて行く。
かん かん かんなのカミさんは
赤い花ほしいともうします
かん かん かんなのカミさんは
白い花いらぬともうします
赤いはこには 赤いれて
白はちぎって すてましょう
雨がなくとも おどりはならぬ
花がなくとも おうたはならぬ
かん かん かんなのカミさんにゃ
赤いお花をあげましょう
椿を匣の中に入れて行く子供たちは、楽しそうに笑っている。
それなのに巫女姿の女の子は、何の表情もない。
そして、女の子の目から、一粒の涙がこぼれ落ちた——。