鳥坂の靴を胡蝶が丁寧にそろえてから、続いて部屋に上がる。この時にはすでにマリアは二人から手を離してはいたが、部屋に上がろうとはしない。
「あら、どうしたのマリアちゃん。突っ立ってないで上がってらっしゃいな」
マリアは俯いたまま動こうとしない。
「どうした? 胡蝶」
「この子、部屋に上がろうとしないのよ」
鳥坂はマリアの手を取ると、強引に部屋の中へと引きずるように入って行った。
「ちょっと鳥坂!」
その後ろを胡蝶が追いかける。そのまま彼はマリアをリビングにではなく、風呂場の前へと連れて来きた。
「胡蝶。風呂、頼む」
「へ?」
「さっきあんたが風呂って言ったんだろ」
胡蝶が笑いをかみ殺している。それに少し腹が立った鳥坂だったが、今は胡蝶に頼るしかないと言い聞かせた。
「仕方が無いねえ。マリアちゃんおばさんとお風呂に入ろうね」
だがマリアは首を横に振った。
「ならここから出て行け。そして今後俺に付き纏うな」
「ちょっと、そんな言い方をしなくても」
「こんな汚いがガキを家に入れたんだ、それでも迷惑してるんだから当たり前だろ。どうする?」
マリアは覚悟をしたのか、首を縦に振った。
「胡蝶、頼む」
「はいはい。それにしても凄い汚れようだねえ。あそこの園はかなりしっかりいるから、こんな子は他にはいないんじゃないかしら」
「そんな事どうでもいい。服は一度、風呂場で洗ってくれ。それから洗濯機を回す。タオルは洗面台の横にある棚から好きな物を使ってくれ」
「はいはい。じゃあ、あんたは向こうにいってなさい。それと鳥坂のシャツでも何でもいいから、服を置いておいてちょうだい」
「わかった」
クローゼットの奥にしまっている小さめの長袖シャツを引っ張り出し、風呂に二人が入ったのを確かめてから、脱衣所に分かるように置いた。