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第3話 (女子高生+悪役令嬢+魔王ぱぅわー)÷2

「平行世界、ですか?」

「マルチバースでもいいわよ。地球とここ……ヤミヒカ世界が、違う可能性を辿っただけの同じ世界だと理解してくれれば」


 仮説だけどね、と付け加えつつ、優雅に紅茶を飲みながら喋る『私』。

 別になぞなぞとかではない。本当に『私』が喋っているから困る。


「その、私もそれ系のアニメとかラノベとか見てきているので意味は分かるのですが、さすがにそれは……異世界転生とかじゃないんですか?」

「貴女、トラックに轢かれたとか、過労で死んだとか、転生するようなことした?」

「トラックはともかく、女子高生で過労は……あ! 地震に巻き込まれました! 実はあのあと建物が倒壊して、下敷きになって死んだとか!」

「家は無事よ。貴女がこっちで私に……レムリア・ルーゼンシュタインとなったあと、私は貴女、姫川葵として、あの家に住んでいたんだから」

「え、私の家に!?」


 知らないうちに、同年代の子が私の部屋に入るという一大イベントが発生していた!

 これがきっかけで、憧れのレムリアさんとお友達になんかなっちゃたりして……


「あの部屋どうなってるのよ。服は出しっぱなしだし、お菓子もそのまま。自分で片付ける気がないなら、メイドでも雇いなさい」


 あ、やっぱ無理だ。ちょっと私とは住む世界が違いすぎる。


「それより、地震が起きたと言ったけど、それはこっちの世界でしょ? 儀式の最中に地震があったと思うけど」

「え……地震なんてありませんでしたよ?」


 ある意味で、私が地震を起こしてしまったというか、あの地下室を崩壊させてしまったが。


「……それは本当?」

「あ、はい。誓ってないです。」

「そう……」


 そう考えながら、レミリアさんは話を続ける。


「ちなみに、あなたが言う地震が起きたとき、何をしていたか聞かせなさい」

「えっと……ゲームしてました」

「他は?」

「他、ですか?」


 他といわれても……って、近っ!

 ロナードといい、ヤミヒカの登場人物は、絶対に距離感を間違えている。

 いくら最も見慣れた顔とはいえ、照れるものは照れるのだ!


「何か考えたりしなかった? 例えば、世界を変えたい、とか」

「……っ!?」


 何故そんなことを考えていたのがバレているのか!?


「あ、はい……恥ずかしいこと考えていて申し訳ありません。直ちに土下座します」

「土下座なんてしなくていいし、そもそも、なんでそんなことする必要があるのよ」


 土下座がダメなら、レムリアさんなんかSっぽいし、足でも舐めれば、この黒歴史を広めないでもらえるかなとか考えていたら、レムリアさんが意外な言葉で話を続けてきた。


「……私も同じことを考えていたわよ。あの魔王を宿らせる儀式のときにね」

「えっ、そうなんですか?」

「儀式の途中で、頭に声が響いたのよ。『我の復活をなす貴様に褒美をやろう。何か望みを言え』とね。そして私は、同じように世界を変えたいって答えた。そしたら地震が起きて、気が付けばこの体よ」

「あ、私も同じです! 気がついたら、全裸のレムリアさんでした!」

「……その言い方やめなさい。それだと、私が日頃から全裸みたいじゃない」


 そう言いながら、ちょっと恥ずかしがるレムリアさん。

 めちゃくちゃ可愛いのだが、見た目が私(姫川葵)なので、非常に複雑だ。


「貴女の言っていることが本当なら、地球とヤミヒカの世界が、元は同じであることが証明されたかもしれないわね」

「え、それってどういうことですか?」

「地球とヤミヒカの世界は同じ世界……つまり、二つの世界には、姿形が違っても全く同じ存在がいる、これは分かるわよね?」


 先ほどの、平行世界かメタバース説に戻るレムリアさん。


「全く同じ存在が、全く同じ時間に、全く同じことを考えた……こんな奇跡に近いことが起きたせいで、同じ存在である私たちは強くシンクロし、一瞬だけ完全な同一存在となってしまった」


 たしか、昔見たアニメにそういう展開の作品があった。

 特に印象に残っているのは、同じ存在が戦うことになって、戦っている最中にシンクロして世界融合みたいな……ん?


「そして間が悪いことに、この瞬間に私は、魔王の力によって体を変化させられていた。その影響は、強くシンクロしていたもう一人の私にも出てしまった。もちろん、奇跡であるシンクロはすぐに解除され、力も、記憶も、色々混じった状態の二人に分かれる。それが……」


「あ……あの!」

「急に大声出さないで。はしたないわよ」

「あ、ごめんなさい……って、それどころじゃなくて!」


 私はアニメや漫画を見るとき、こういう理論系の設定はいつも理解できないので聞き流している。

 できるものはできる、できないものはできない、それでいい! ぐらいにしか考えていないのだが、聞き流せない内容があった。


「あ、あの、その話が本当なら、もうひとりのレムリアさんって……」

「貴女以外誰がいるのよ」

「さ、さらっとそんな大事なこと言わないでくださいよ!」

「別に驚くところじゃないでしょ。それとも、私と同じ存在というのは不服かしら?」


 めちゃくちゃ光栄です! ていうか、サインとかもらっていいですか! とか、言えるわけがない。


「と、とにかく! どんくさい私と、あのレムリアさんが同じ存在とかはありえないです!」

「どんくさい? 私の中の貴女の記憶だと、貴女って、柔道で大人相手にも勝ってるじゃない。あれだけ動けるなら、どんくさいってことはないでしょう」

「そ、そういう物理的な動きじゃなく……え、あの、ちょっと待ってください。私の記憶って、どこまであるんですか?」


 私にも、ある程度レムリアさんの記憶がある。この世界の常識とか、言葉とか、読み書きとかが分かるのもこのおかげだ。

 だが、私の個人情報はそんな可愛げのあるものじゃない。

 しかもレムリアさんは、私として暮らしていた。


 つまり、私の黒歴史を見放題の可能性が……


「……まあ、私たちって、そういうのに憧れる年だから、別にいいんじゃないかしら」

「なんですか、そのちょっとはにかみというか、憂いとも言うような顔は! どこまで知って……いや、見たんですか! 私の黒歴史アルバムですか! それとも、ゲームコレクションですか! まさか、PCのハードディスクの中まで……!」

「まあそれは置いといて、今は、今後に起きる貴女とヤミヒカ世界の危機について話しましょうか」

「私の危機は今ですけど! なんだったら、どうやって切腹すらば痛くないかぐらい考えてますけど!」

「私が言いたいのは、黒歴史暴かれるよりもきつい危機の方よ」

「それ以上の危機なんて、この世に……あ!」


 ある……今の私にはそれ以上の危機が。


「その反応、やっぱり貴女に魔王の力が宿っているのね?」

「……はい」


 そう。私、『レムリア・ルーゼンシュタイン』が、魔王となってこの世界を滅ぼしてしまうかもしれないということだ。


「……やっぱりそうなのね」

「あ、レムリアさんの方は大丈夫ですか!? 魔王の力を宿して、体がおかしなことになってるとか!」


「……え?」


 レムリアさんが驚いた顔をする。

 天才のこの人も驚くこともあるんだなと思いながら見ていたが、すぐにいつも通りの顔に戻って話を続ける。


「……私は、魔王の力を宿していないわ。ただ、同じように魔王の力で体が変化したらしくて、強力な魔力が宿ってる」


 そう言いながら、右手を差し出す。

 魔力を込めているのか、青白く輝くその手には、私がアポカリプスを使うときに現れる紋章みたいなのが浮かび上がっている。


「おそらく魔王は、私たちが望んだ圧倒的な力……魔王の力と、それを扱う膨大な魔力を私たちに与えた。だけど私たちはふたつに分かれ、膨大な魔力は私に、魔王の力は貴女に宿ったんでしょう。体が変わった理由は……まあ、想像は付くけど、今はやめておきましょう」


その理由、とっても気になります! な状態なのだが、たぶん根拠がひとつもないから今は言えないということなのだろう。


だがそれより、今の私はもっと気になることが。


「あの、それよりレムリアさん。今の話を聞く限り、魔法が使えるようになったってことですよね?」

「ええ。ここに帰ってきたのも、自分が強く記憶している場所に戻れる、転移魔法を使えるようになったからで……」

「おめでとうございます!」

「え……」

「良かった……レムリアさんが、魔法を使えるようになって……。もう魔王になんてならなくても大丈夫! レムリアさんは幸せになるべきなんです!」


 良かった……レムリアさんが魔法が使えるようになって!

 憧れていた人が幸せになってほしいというファン心理ももちろんあるが、それ以上にレムリアさんは魔力が無いというだけで、本当に辛い思いをしていた。

 そんな人は、幸せになって欲しい……いや、なるべきなのだ!


「……近すぎ。離れなさい」

「あ、ごめんなさい」


 気が付けば、レムリアさんに思いっきり顔を近づけて話していた。

 それぐらい嬉しかったのだからしょうがないというか、距離感については、さっき思いっきり顔を近づけてきたレムリアさんに言われたくない。


「とにかく、今は世界の危機……このままでは、貴女が魔王になってしまうことについての話に戻すわね」

「は、はい……」

「さっきも言ったけど、ここに戻ってくるまで、私は貴女……姫川葵として地球で過ごしたわ。そして、『ヤミヒカ』もプレイしたから、バッドエンドについて知っている。そして、今の状況が限りなくバッドエンド直行に近いこともね」


 その話を聞き、私は顔をうつむかせる。

 バッドエンド直行の可能性が高いというのは、私も分かっている。

 レムリアは既に、魔王を体に宿してしまった……つまりは、ヤミヒカというゲームが始まってしまったのだ。


 普通に過ごしてしていたら、私……レムリアは魔王になり、超超超高確率で世界崩壊バッドエンド直行というゲームが。


「そんな顔をするってことは、貴女はこの状況を回避する方法を知らないようね」

「はい…………はいっ!?」


 今なんと仰ったのか、このお嬢様は!

 ああもう、そのちょっとドヤ顔するところが可愛いなもう!


「えっと……あるんですか? バッドエンドを回避する方法」

「もちろんよ。その方法はね……グッドエンドを目指すことよ」

「グッドエンド……」


 もはや存在すら忘れていた!

 そういえば、ヤミヒカにはバッドエンドだけじゃない! もうひとつの、私の知らないエンディングが存在するのだ!


「あ、ということは、レムリアさんはグッドエンドを見れたんですか?」

「…………」

「あ、はい。察しました」


 同時に、悔しそうかつ、ちょっと拗ねた顔いただきました。


「……確かに見れなかったけど、グッドエンドは本当に存在するわ。魔王は勇者に倒されて、レムリアも生存するそうよ」

「えっ、なんでグッドエンドを見てないのに、内容を……ま、まさか、攻略サイトに頼って……」


「この私が、そんな邪道なことするわけないでしょ! 『ヤミヒカ』について情報集めるためにゲーム掲示板に行ったら、雑談でグッドエンド内容のネタバレしてたクズの書き込みが、少し目に入っちゃっただけよ! 本当、ネタバレとか万死に値するわ!」


「ですよね! 私もそう思います!」


 初めて同じ意見になれた!

 こういうところを見ると、私と同じ存在というのも、ちょっと納得できるかも。


「ちなみになんですけど、さっき言っていた転移魔法で、私の家に帰れたりするんですか? 帰れるんだったら、今から家に戻って、グッドエンドを見るまでゲームというのはどうでしょうか?」


「………………」


 あ、すっごく複雑な顔してる。

 これはいわゆる、現実世界には帰れない的なやつか。


「……無理ね。結論だけ言うと、入ってくることはできても、出られないのよ。おそらく、魔王の影響ね」


 やっぱりそういうことか。


「……ごめんなさい。私の事情に貴女を巻き込んでしまって」


「あ、そこは気にしないでください。というか、こんな現象が起きるかもなんて予想なんてできませんよ」


 なんなら、私がレムリアさんのやりたいことを邪魔してしまったまである。

 本当なら今頃、魔王勢力の最強幹部というか、新しい魔王として、自分の信じる道を突き進んでいたはずなんだし。


「とにかく、グッドエンドを迎えて魔王をなんとかすれば、私たちに干渉している力が消えて、この入れ替わりをなんとかできるかもしれないわ。あとは、あなたを転移魔法で地球に返せば元通りよ」

「さすがです! あ、でも魔王の力が無くなったら、レムリアさんはまた魔法が……」


 使えなくってしまう、と話そうとした瞬間に……


「……お馬鹿」

「はうっ!」


 ……デコピンされた。

 しかも、結構痛いやつ。


「くだらない心配しないでいいわ。それに、魔法を使えなくなっても、今の私には色々とやれることがあるしね」


 そう言いながら、非常に見慣れたものを取り出す。


「それって、私のスマホ!?」

「こちらでも使える現代技術は大半を学習済み。このスマホにも、いろいろと情報を保存しているわ。充電方法は、雷の魔法を宿した魔石でなんとかできそうだし……ふふっ、地球の技術と知識でヤミヒカの世界を変えるのが楽しみだわ」


 そう言いながら……ものすっごく悪い顔をするレムリアさん。

 とりあえず、私の体でそんな顔するのはやめてほしい。


「さて、まずは貴女がこっちに来たとき、特に魔王を宿す儀式について聞かせてもらうわ。それと平行して……」


 そういいながら、スマホのスケジュール画面いっぱいに表示されている、『グッドエンドを迎えるための最低条件』と、ToDoリストを見せてくる。

 ざっと見る限り、ゲーム開始までにやるべき行動や、最低限備えておくべき能力、さらには、現時点で判明しているバッドエンドのフラグ潰しに必要な行動の一覧など、とにかくびっしり。


 もはや攻略サイトの情報一覧レベルの内容が、毎日の分単位のスケジュールで組んである。


(……逃げなきゃ!)


 私の中の何かが、圧倒的な危険を感じて逃げようとした瞬間に、肩をがっしりと捕まれる。

 ゆっくりと、ゆ~っくりと後ろに振り返ると、そこには本当に良い笑顔が。


「……頑張りましょうね、レムリア様♪」


 ――改めて思い出す。

 私の良く知る顔で悪魔の笑顔をしている人は、『悪役』令嬢だということを。

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